最新記事

中国

「北の急変は中国の影響」なのか?──トランプ発言を検証する(前編)

2018年5月21日(月)08時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

トランプ米大統領 Jonathan Ernst-REUTERS

トランプ大統領が「北朝鮮の米朝首脳会談再考は中国の影響だろう」と発言。金正恩委員長大連訪問後まもなくだったからとのこと。その推論が妥当か否か、元中国政府高官への独自取材も交えて考察する。

*後編:「『北の急変は中国の影響』なのか?――トランプ発言を検証する(後編)

トランプ大統領の発言

5月16日、北朝鮮は南北閣僚級会談をキャンセルしただけでなく、米朝首脳会談に関しても開催するか否かを考えた方がいいという趣旨の発表をした。

すると5月17日、アメリカの英文メディアBloomberg(ブルームバーグ)が、"Trump Says China May Be Stoking North Korean Jabs Before Talks "というタイトルでトランプ大統領の発言を伝えた。続けて同紙・日本語版ウェブサイトが18日、「トランプ大統領:北朝鮮の態度急変、中国が誘発か―米朝会談控え」と伝えている。

それによればトランプ大統領は17日、「中国の習近平主席は北朝鮮のリーダー、金正恩(キム・ジョンウン)に影響を与えたかもしれない。彼(金正恩)の米朝首脳会談に対する戦略は明らかにネガティヴなトーンに急変した」と記者団に述べたとのこと。その上で、「2週間ほど前に金正恩委員長が中国を電撃再訪して習主席と会ったのを思い出してほしい。彼(習近平)が金委員長に影響を及ぼしていることは十分あり得る。どうなるのか見守るつもりだ」と発言し、最後に「中国の習主席が影響を及ぼしている可能性があるという意味だ」と、ダメ押しのように付け加えている。

大統領執務室で開かれた北大西洋条約機構(NATO)事務総長との会談の際に記者団に対して述べた言葉だ。

さて、この推論は妥当なのだろうか?

劉鶴副総理一行が通商交渉のために訪米していた最中

中国はこの時、米中貿易摩擦を解消するため、中国は国を上げてアメリカを取り込もうと必死に動いていた。そのため経済貿易を担当する劉鶴・国務院副総理(副首相)を団長とする訪米団一行が、5月7日にホワイトハウスの承諾を取りつけていた。

5月8日の中国外交部の耿爽報道官の定例記者会見でも、そのことに触れている(タイトルにある「白宮」は「ホワイトハウス」のこと)。

中国共産党が管轄する中央テレビ局CCTVは、毎日のように劉鶴一行の訪米(5月15日~19日)を報道し、何としてもトランプ大統領に中国の通信機器大手、中興通訊(ZTE)への制裁を緩和するよう求めようとしている中国の意図が報道全般に溢れていた。

アメリカの商務省が4月16日、ZTEがイランや北朝鮮に違法に米国製品を輸出しながら虚偽の説明を繰り返したとして、アメリカ企業との取引を7年間禁じる制裁を科していたため、ZTEはスマートフォンなどの主力製品の生産や販売の停止に追い込まれるなど、中国は苦境に陥っていたからだ。

したがって、トランプ大統領のご機嫌を損ねてはまずいと、習近平国家主席はトランプ大統領との電話会談においても低姿勢を貫いていたのである。中国大陸内での雇用を奪われる危険性もあり、他のどんな犠牲を払ってでもZTEを通した米中貿易摩擦を回避したいと必死だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インフレ上振れにECBは留意を、金利変更は不要=ス

ワールド

中国、米安保戦略に反発 台湾問題「レッドライン」と

ビジネス

インドネシア、輸出代金の外貨保有規則を改定へ

ワールド

野村、今週の米利下げ予想 依然微妙
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 10
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中