最新記事

ロシア

猫に出し抜かれた「トラック野郎」プーチンとクリミアの悲劇

2018年5月17日(木)18時30分
ダミアン・シャルコフ

シベリアを視察中、住民の猫を抱くロシアのプーチン大統領(2015年9月4日) Alexei Druzhinin/RIA Novosti/Kremlin-REUTERS

<2014年に併合したクリミア半島とロシア本土を結ぶ橋が開通。プーチン大統領は侵略の過去を塗りつぶそうと大型トラックを運転して勇ましく橋を渡ったが>

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ロシアが数十億ドルを投じて完成させたロシアとクリミア半島を結ぶ「クリミア橋」を最初に渡るはずだった。それがなんと「猫」に先を越されてしまった。

プーチンは5月15日、2014年にウクライナから併合したクリミア半島とロシアを結ぶ洋上橋の自動車用道路の開通を記念し、自ら大型トラックを運転して橋を渡ってみせた。数十台のトラックを率いてロシアのクラスノダール地方からクリミア半島側に向かって走行。全長19キロの橋を渡りきって式典に参加するプーチンの映像をテレビカメラが報じた。

だが実はその前日、猫が先に橋を渡って「安全点検」を終えていたことが、インスタグラムへの投稿で明らかになった。

「初の19キロ完走。橋は完壁だよ!」と、猫の「モスチク」は宣言した。「明日は建設作業員や大統領といっしょに橋の開通をお祝いする。5月16日からはみんなも車で渡れるよ」

モスチクはクリミア橋のあだ名で、2015年に橋の施工会社が写真を投稿したのをきっかけに、建設作業員のマスコットになった。建設機材の上で昼寝をしたり、浜辺で遊んだり、作業現場を探検するモスチクの画像は、ロシア国内で何万回もシェアされた。ロシアのテレビ番組に出演するモスチクのために、作業員たちが小さな赤いヘルメットを用意したこともある。

併合の後すぐに橋を発注

だが、そんなモスチクの愛らしさに吹き飛んでしまったのはプーチンのマッチョなパフォーマンスだけではない。武力によるクリミア併合という蛮行を既成事実化する橋の悲劇も忘れ去られてしまった。その点で、モスチクはプーチンよりはるかによい仕事をしてくれた。

プーチンは2014年、ウクライナの首都キエフで親ロシア政権が崩壊した混乱に乗じ、軍隊を投入してクリミアの政府庁舎を占拠した。事の始まりは、ウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ政権(当時)が突然、親EU路線を撤回してロシア側に付いたこと。怒った親欧米派がヤヌコビッチを退陣させると、ロシア系住民の保護を口実にロシア軍がクリミア半島に侵攻した。

国連加盟国の大多数がロシアを非難したが、ロシアはクリミアに住民投票を行わせ、ロシア編入に賛成が圧倒的だったとして併合を強行した。

ロシア政府はそのすぐ後に、クリミア橋の建設を発注した。受注したのは、プーチンの親友で大富豪のアルカディ・ローテンベルク率いるロシア企業。当初、自動車部分と鉄道部分からなる橋の総工費は10億ドルと試算されたが、その後40~50億ドル近くに膨れ上がった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相が退陣表明、米関税で区切り 複数の後任候補

ワールド

石破首相が辞任表明、米大統領令「一つの区切り」 総

ワールド

インドは中国に奪われず、トランプ氏が発言修正

ワールド

26年G20サミット、トランプ氏の米ゴルフ場で開催
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給…
  • 5
    ロシア航空戦力の脆弱性が浮き彫りに...ウクライナ軍…
  • 6
    金価格が過去最高を更新、「異例の急騰」招いた要因…
  • 7
    「ディズニー映画そのまま...」まさかの動物の友情を…
  • 8
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 9
    今なぜ「腹斜筋」なのか?...ブルース・リーのような…
  • 10
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 6
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 7
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 8
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 9
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中