最新記事

欧州

仏メーデー行進で大暴れした新左翼集団「ブラック・ブロック」とは何者か

2018年5月8日(火)17時20分
広岡裕児(在仏ジャーナリスト)

労働者のデモ行進に便乗して機動隊に火炎瓶を投げる黒づくめの暴徒(5月1日、パリ) REUTERS-Philippe Wojazer

<パリのデモ行進をぶち壊しにした黒づくめの集団は、破壊衝動をかかえた学生やサラリーマンや女性のバラバラの集まりで、欧米に拡大中の現象だ>

今年のパリのメーデー行進は、暴徒のために台無しにされてしまった。デモコースの4分の1も歩けなかった。

あの日、出発地点のバスチーユ広場ではとくに集会や演説はなく、デモ隊が組織ごとに大通りを歩き始めた。まもなくセーヌ川の橋を渡り始めたとき、隊列が突然、止まった。

全身黒づくめの一団が、「Black Bloc(黒い塊)」と書いた横断幕を持ってデモ隊を待ち受けていたのだ。それから一緒になってゆっくり橋を渡りきると、バラバラに散って角のマクドナルドのガラスを破り、火炎瓶を投げつけた。近くにあった小型工事車も炎に包まれた。新聞キオスクのガラスもメチャメチャに砕け散った。

「フランスのパリで5月1日、労働者によるメーデーのデモに参加していた若者らが暴徒化し、商店や車に放火する騒ぎに発展した」(AFP=時事)という報道があったが、実情は異なる。

たしかに、ニュース映像を見てもまるでデモの先頭に立っているように見えるが、デモ隊とはまったく別だ。参加者が暴徒化したのではなく、暴徒が加わったのである。

彼らはまさに忽然と現れた。バスチーユ広場と周辺道路には、黒づくめの塊はなかったのだ。

デモコースに通じる道はいずれも通行止めにされ、警官もいるのだが、そこは普通の格好で通り抜けたのだろう。そして人目につかないところで着替え、前日までに隠してあった火炎瓶やハンマーを取り、セーヌ川の橋の上に陣取ってデモ隊に紛れ込んだのだ。

いったい彼らは何者か。

黒づくめが仲間の合図

「Black Bloc(黒い塊)」の名前のとおり、全員目出し帽やバンダナの覆面で顔を隠し、つま先まで真っ黒な服装をしている。だがよくみれば、Tシャツの者もいればジャージや防水ジャケットを着ている者もいる。バラバラの服装が物語るように、統制は取れていない。

フランスの軍警察学校の報告書の表現を借りれば、「彼らは数人で集まったグループの集合体であって、メンバーはデモのたびに違う。ヒエラルキーもなく、指導者もいない」

つまり、はじめから組織団体があって、この服装で集まれ、といわれるのではなく、この服装の者たちが集まることで集団が形成されるのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

メラニア夫人、プーチン氏に書簡 子ども連れ去りに言

ワールド

米ロ首脳、ウクライナ安全保証を協議と伊首相 NAT

ワールド

ウクライナ支援とロシアへの圧力継続、欧州首脳が共同

ワールド

ウクライナ大統領18日訪米へ、うまくいけばプーチン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 6
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 10
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 6
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 7
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 8
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中