最新記事

事件

運動期間中20人以上が殺された! 立候補は命がけというフィリピンの選挙

2018年5月8日(火)20時16分
大塚智彦(PanAsiaNews)

フィリピンの選挙では投票所を武装兵士が警備する。写真は2010年のバンガライ選挙。Cheryl Ravelo - REUTERS

<フィリピンで激しい選挙戦を勝ち抜く手っ取り早い方法。それは対立候補を殺してしまうことだ>

フィリピンは5月14日に全土でバンガライ議長選挙が一斉に投票される。バンガライとは最小の行政単位(日本でいえば地区や隣組に相当)で約100~500世帯の行政責任者のことで、全国約4万2000のバンガライで現在、激しい議長選が繰り広げられている。

「激しい」とあえて表現したのは理由がある。選挙運動期間は5月4日から12日までの9日間に過ぎないが、立候補予定者による準備集会などは実質的に4月はじめからスタートしており、5月5日現在ですでに立候補者やその親族など20人が殺害されているのだ。

バンガライの議長に選出されると経済的にはかなり潤うといわれており、立候補者同士は政策に関する論戦を戦わせるというより、嫌がらせや怪文書、買収、暴力行為などの「汚い選挙運動」が展開されるのが常態となっているという。

そして激しい選挙戦になればなるほど、「手っ取り早い方法」として対立候補を殺害してしまうという「究極の選択」に走る傾向がフィリピンにはあるのだ。

相次ぐバンガライ選挙関連の殺人事件

4月3日、フィリピン南部ミンダナオ島の中部にある北コタバト州カルメンで役所から車で帰宅しようとしていたトンガノンのバンガライ議長ヨアキン・セグンバン氏(56)と身辺警護のボディガード(57)が待ち伏せしていた複数のガンマンから銃撃され、2人は死亡した。犯人らは近くに止めてあったバイクで逃走したが、未だに犯人は逮捕されていない。

ヨアキン議長は地域の麻薬犯罪撲滅に熱心で、同時に中東のテロ組織「イスラム国(IS)」に感化された地元のイスラム武装組織の壊滅を目指して警察や国軍と連携していた。この地元の武装組織は今年になって国軍と交戦して約20人の構成員が殺害されており、ヨアキン議長を殺害した犯行グループは麻薬組織かイスラム武装組織、あるいはバンガライ議長選に立候補しようとしていた政敵関係者との見方が強まっている。

また、4月26日午後5時半ごろ、フィリピン中部ビサヤ諸島サマール島北部の街カルバヨグでバイクに乗って地元カタブナンに向かっていたカタブナン・バンガライの議長立候補者であるクリストファー・ブランズエラ氏が射殺された。一緒にいた父のメラニオ氏も殺され、もう1人の同行者は重傷を負った。

翌日27日にはルソン島中部ブラカン州サンラファエルでバンガライ前議長の77歳の男性が自宅前で妻(75)と会話しているところに、バイクに乗った2人組が近づき、いきなり2人に向けて発砲した。前議長は死亡、妻は重傷を負い、犯人はバイクでそのまま逃走。いまだに犯人も動機も不明のままだ。

一連の事件は待ち伏せして被害者が通りかかったところや、被害者が自宅などにいるところをバイクで乗りつけていきなり発砲するという実に荒っぽい手口が特徴で、いずれのケースも警察の捜査は続いているものの犯人逮捕には至っていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 6
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 7
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 8
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 9
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 10
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 9
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 10
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中