最新記事

北朝鮮

金正恩の「親戚」が脱北か...殺害命令が下る

2018年4月26日(木)17時10分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

東京の大画面でニュース映像に登場した金正恩 Toru Hanai-REUTERS

<金正恩と曾祖父が同じ「白頭の血統」に連なる国家保衛省の幹部が2月末に中国で失踪――金正恩はすぐに殺害命令を下した>

南北首脳会談の開催が迫る中、北朝鮮の金正恩党委員長の「親戚」が脱北したとの情報が飛び込んできた。報告を受けた金正恩氏は、即座に「殺害命令」を下したという。

北朝鮮事情に精通した中国の情報筋がデイリーNKに語ったところによると、この人物は北朝鮮の秘密警察、国家保衛省の海外反探局(スパイ担当部署)の幹部で、50代後半の康(カン)大佐。海外反探局の三頭馬車(ビッグ3)と呼ばれる大物で、中国瀋陽にあった北朝鮮系の七宝山(チルボサン)ホテル(現在は中富国際ホテル)に事務所を構え、中国、ロシア、東南アジアで活動する反探局の要員を指揮していたという。

大佐が忽然と姿を消したのは今年2月25日のことだ。理由は、不正が発覚したためとされる。偽ドル札印刷用の活字版と、相当額の外貨を所持していたとされる。

大佐は金日成主席の母、康盤石(カン・バンソク)の父、康ドヌクの子孫、つまり金正恩氏と同じ曽祖父を持つ「白頭の血統」に連なる人物だ。金王朝の一員とも言うべき人物の脱北で、金正恩氏が受けた衝撃は相当なものだったろう。事件の報告を受けた金正恩氏はすぐに「除去せよ」との命令を下した。つまり、殺害せよということだ。

しかし、当局は現在も大佐の行方を追っているが、発見には至っていない模様だ。

金王朝からは過去に、李一男(リ・イルナム)氏が脱北している。金正日総書記の妻の成へリム(ソン・ヘリム)氏の姉である成ヘラン氏の息子で、昨年マレーシアで殺害された金正男(キム・ジョンナム)氏の従兄にあたる。1982年に韓国に亡命後、李韓永(イ・ハニョン)と改名して暮らしていたが、1997年にソウル郊外の自宅で北朝鮮が派遣した工作員に殺害された。

李氏は韓国で、「喜び組」をはべらせた「秘密パーティー」など金王朝の内幕を暴き、金正日氏の激怒を誘ったとされる。金正恩氏にも「パーティー癖」があると言われるが、大佐はそのような情報も握っているのだろうか。

参考記事:北朝鮮「秘密パーティーのコンパニオン」に動員される女学生たちの涙

金正恩氏は、母親の高ヨンヒ氏が大阪で生まれ育った元在日朝鮮人の帰国者であるため、もともと親戚が少なく、北朝鮮国内に閨閥と呼ぶべきものが存在しない。だからこそ、妹の金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党第1副部長に強い信頼を寄せているのだろう。また、異母姉である金雪松(キム・ソルソン)氏も、表に出ることなく金正恩氏を支えていると思われる。

参考記事:金正恩氏の「美貌の姉」の素顔...画像を世界初公開

脱北したとされる大佐と金正恩氏は、直接の関わりは持っていなかったものと思われる。しかしこのようなことが今後も続くようなら、北朝鮮国民の金王朝に対する視線はいっそう冷ややかになるかもしれない。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落後切り返す、FOMC受け荒い

ビジネス

10月米利下げ観測強まる、金利先物市場 FOMC決

ビジネス

FRBが0.25%利下げ、6会合ぶり 雇用弱含みで

ビジネス

再送〔情報BOX〕パウエル米FRB議長の会見要旨
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中