最新記事

アルメニア

小国アルメニア、抗議デモで強権と腐敗から国を救う

2018年4月24日(火)16時20分
クリスティナ・マザ

権力にしがみつこうとするサルキシャン前大統領の強引な政治手法に、立ち上がったアルメニア国民(4月23日、首都エレバン) Vahram Baghdasaryan-REUTERS

<長期政権を敷いたあげく、憲法改正の国民投票を強行して、さらに独裁を続けようとしたサルキシャン前大統領に、国民の力を見せつけた>

南コーカサスにある旧ソ連構成国のアルメニアでは4月23日、セルジ・サルキシャン首相が辞任を表明。11日間にわたって展開されたデモは、時として抗議デモが政治を変える力を持ち得ることを国際社会に知らしめた。

サルキシャンは、抗議行動を率いた野党指導者の「ニコル・パシニャンが正しく、私は間違っていた」との声明を発表。「首相の座を辞することにした。この国の平和と協調を願っている」とした。

アルメニア国民は辞任を歓迎。2018年4月23日は、トルコとロシアという大きな隣国による支配が長かったアルメニアの「民主主義のはじまりの日」だと宣言する者もいた。

「アルメニアの民主化のはじまりだ。国民はそれを求めて抗議デモを展開してきた。これは重要な節目だ」と、アルメニア市民のマリア・カラペティアンは本誌に語った。

その言葉どおり、サルキシャンの辞任はアルメニアにとって重要な変化を意味する。親ロシア派のサルキシャンは、10年間にわたって大統領として国を統治してきた。

2015年、政府は憲法改正の是非を問う国民投票を強行。改正案は大統領を象徴的地位に「格下げ」し、首相の権限を拡大するという内容だった。多くの有識者が、この改正は、大統領としての任期が満了した後にサルキシャンが首相に鞍替えできるようにするためのものだと指摘。野党は、サルキシャンがさらに10年間、権力の座に居座り続けることができるように法律を変えたと非難した。

政敵暗殺未遂の噂も

サルキシャンは常に物議を醸す存在だった。2008年に大統領に選出された際には、選挙結果に抗議した野党支持者ら警察と衝突し、少なくとも8人が死亡。大統領の任期は5年間で2013年の選挙では再選を果たしたが、選挙に先立ち複数の政敵が辞任し、また候補者の1人が銃撃される(暗殺未遂だと見る向きが多かった)などの騒動があった。

だがアルメニア政府は4月17日、そのサルキシャンを首相に任命。与党・共和党の指導部は、抗議デモを回避するために首都から離れたリゾート地でこの決定を下した。

野党はすぐに、この決定を「独裁主義的な権力の乗っ取り」だと非難し、街頭には大勢のデモ隊が繰り出した。この反政府デモには、アルメニア軍の兵士も多く参加した。数百人が逮捕され、デモ隊と治安部隊が激しく衝突し、欧州連合(EU)がデモ隊の厳しい取り締まりを非難した。

「若者や学生も参加し、前例のない規模の抗議デモになった。全ては平和裏に行われていたが、2日目に警察がデモ隊に閃光発音筒を発射し、デモを率いていた野党指導者のニコル・パシニャンを含む40人以上が怪我をした」と、自らも負傷したデモ参加者の一人、ゲイボーグ・バビヤンは語る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

赤沢氏「合意の結論に直ちに結びつかず」、対米交渉を

ワールド

ロサンゼルスで移民の抗議活動、トランプ政権が州兵派

ワールド

コロンビア大統領選の候補者、銃撃される 容疑者逮捕

ビジネス

CPIや通商・財政政策に注目、最高値視野=今週の米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:韓国新大統領
特集:韓国新大統領
2025年6月10日号(6/ 3発売)

出直し大統領選を制する李在明。「政策なきポピュリスト」の多難な前途

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 2
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全な場所」に涙
  • 3
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット騒然の「食パン座り」
  • 4
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 5
    救いがたいほど「時代錯誤」なロマンス映画...フロー…
  • 6
    プールサイドで食事中の女性の背後...忍び寄る「恐ろ…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「銀」の産出量が多い国はどこ?
  • 9
    ディズニーの大幅な人員削減に広がる「歓喜の声」...…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 4
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 5
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 6
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 7
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 8
    ウクライナが「真珠湾攻撃」決行!ロシア国内に運び…
  • 9
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 10
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中