最新記事

北朝鮮

変わらぬ北朝鮮が6人銃殺、理由は「電話帳を売ろうとしたから」

2018年4月24日(火)14時00分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

外交上は対話路線に転じた金正恩だが国内の恐怖政治は続いている KCNA-REUTERS

<北朝鮮では「機密情報」扱いの電話帳を海外に売ろうとしたとして平壌市民6人が銃殺刑に。国内の恐怖政治は変わらず続いている>

北朝鮮当局が昨年末、国内の電話帳を海外に売り払おうとしたとの疑いで平壌市民6人を銃殺していたことがわかった。また、当局はこの情報を司法機関の内部で共有しながら、情報流出防止に万全を期すよう号令をかけているもようだ。

北朝鮮国内にいるデイリーNKの高位情報筋は20日、「(当局が)司法機関を対象に発行した講演資料に、昨年末、電話帳を外国に持ち出そうとした平壌の住民6人を銃殺したとの事実が書かれている。違法行為を犯せば、必ずバレるということを強調する内容だ」と伝えてきた。

韓国や米国との対話路線に舵を切り、核実験の停止も宣言した金正恩党委員長だが、国内では相変わらず恐怖政治を続けているのである。

参考記事:謎に包まれた北朝鮮「公開処刑」の実態...元執行人が証言「死刑囚は鬼の形相で息絶えた」

情報筋によれば、講演資料では電話帳に5万中国元(約85万円)の値が付けられていたことが明かされているという。

なぜ、電話帳にそれほどの高値が付けられ、さらには外国に売り払おうとした人が処刑されるほどの大ごとになるかというと、北朝鮮においては電話帳が「国家機密」として扱われているためだ。

北朝鮮には電話帳が1種類しかなく、そこには様々な国家機関の番号が記載されている。例えば、韓国の中央日報が2004年に入手した電話帳には「人民武力部対外事業局:321-4987、労働新聞南朝鮮部:322ー2728」という具合に、公に存在を公表していない部署や、組織の全体像までわかってしまうのだ。

そのため、電話帳を韓国の情報機関などに売ってひと儲けしようと考える人が後を絶たないようで、昨年には国家保衛省が電話帳の回収を行っている。

また、前出の情報筋は「電話帳を売り払おうとした犯人が平壌の住民だったことも、当局が厳罰を下した理由のひとつではないか」と言っている。

「平壌には、党・軍・政府の指導機関の幹部たちが集まっている。彼らが情報の漏洩元となった場合、国家が受けるダメージはより大きくなる。そのため『みせしめ』として銃殺し、規律がゆるむのを未然に防ごうとしたのだろう」(情報筋)

しかし北朝鮮の恐怖政治は、昨日きょう始められたものではなく、建国以来ずっと続けられてきたのだ。

参考記事:【動画】金正恩氏、スッポン工場で「処刑前」の現地指導】

それにもかかわらず、国家に背いて情報を売り払おうとする人が続出するのだから、北朝鮮の体制は、そろそろ国民に対するグリップを失いかけているのかもしれない。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イランの報復攻撃にさらされるイスラエル、観光客4万

ビジネス

レアアース磁石確保に苦慮とフォードCEO=ブルーム

ワールド

カンボジア、タイとの国境紛争で国際司法裁判所に解決

ワールド

米ミネソタ州議員銃撃、容疑者逮捕と報道 標的リスト
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中