最新記事

極右

イタリア極右が総選挙前にすみ分け作戦

2018年3月2日(金)16時00分
アンナ・モミリアーノ

昨年11月にローマで開催された「フォルツァ・ヌオバ」の支持集会 Stefano Rellandini-REUTERS

<片や「反移民」のみ、片や過激なカトリック原理主義――主張を役割分担した右派が3月4日の総選挙を前に支持を拡大している>

イタリア中部マチェラータで2月3日朝、28歳のルカ・トライーニが通りを車で走りながらアフリカ系らしき住民を次々に銃撃、男女6人を負傷させる事件が起きた。3月4日の総選挙を目前に控え、人種的な憎悪をむき出しにしたこの凶行に喝采を送った極右政党がある。「フォルツァ・ヌオバ(新しき力)」だ。何と彼らはトライーニに弁護団の提供まで申し出た。

カトリック原理主義とファシズムへの回帰を掲げる彼らをイタリア政界のはみ出し者と片付けるのは簡単だ。実際、公認政党とはいえ、選挙では大して票を獲得できそうにない。

04~09年の一時期、ムソリーニの孫娘アレッサンドラ・ムソリーニと連携して、欧州議会で議席を確保したことはあるが、それを除けば中央でも地方でも議会に進出した経験はゼロ。

そんな彼らが銃撃犯支持を打ち出したことで、今のイタリア政界で進む2つの流れが図らずも浮き彫りになった。主流の右派が極右と共に移民排斥を叫ぶ一方で、極右が主流を目指しているのだ。この2つの流れが絡み合い、イタリアではいま右派の大合流が進んでいる。

フォルツァ・ヌオバはネオファシストの寵児ユリウス・エボーラの思想的影響を受けた組織「第3の位置」の流れをくむ政党で、この組織の指導者だったロベルト・フィオレが97年に設立した。フィオレの同志だったガブリエレ・アディノルフィは仲間と共に別の極右政党「カーサパウンド」を立ち上げた。

同じ組織の系譜を引き、極右思想も共通しているとはいえ、フォルツァ・ヌオバとカーサパウンドは共闘関係にはない。排外主義とムソリーニ時代への郷愁、反グローバリズムの立場は共通でも、両党の主張には大きな隔たりがある。

フォルツォ・ヌオバは同性愛と中絶の権利に反対し、男女の伝統的な役割を重視。カトリック教会をイタリアの国教会とすることを目標に掲げている。

「新しいイタリアに新しい教会を打ち立てることを目指している」と、幹部のアドリアーノ・ダポッソは言う。

一方のカーサパウンドはもっぱら北アフリカからの「民族的侵攻」からイタリア人を守ることを使命としている。

「クールな」極右に転換

こうした違いはあっても、総選挙を控えた今、この2つの極右政党はいずれも追い風を感じている。マチェラータの銃撃事件はイタリア全土で吹き荒れる反移民感情を背景に起きた。イタリアは地理的な位置から欧州の難民危機の震源地になってきた。16年にバルカン諸国が入国制限を強化し、地中海経由でイタリアに入る難民はますます増えた。イタリア政府はリビアと難民協定を結んで流入を制限したが、国民の不満は収まらない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国不動産投資、1─8月は前年比12.9%減

ビジネス

中国8月指標、鉱工業生産・小売売上高が減速 予想も

ワールド

米国務副長官、韓国人労働者の移民捜査で遺憾の意表明

ビジネス

中国新築住宅価格、8月も前月比-0.3% 需要低迷
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    【動画あり】火星に古代生命が存在していた!? NAS…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 8
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中