最新記事

韓国人の本音

平昌五輪、前半戦の勝者は韓国「文在寅」大統領だ

2018年2月21日(水)17時13分
ラモン・パチェコ・パルド(ロンドン大学キングズ・カレッジ・ロンドン・アジア太平洋社会科学センター)

John Sibley-REUTERS

<平昌五輪に北朝鮮を参加させた文政権は、半島外交の主導権を取り戻した>

平昌冬季五輪も、いよいよ山場。前半戦の最大の勝者は誰か。筆者の見るところ、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領だ。

世間には、妹の金与正(キム・ヨジョン)を特使として送り込み、文大統領と会談させた金正恩(キム・ジョンウン)の「ほほ笑み攻勢」の勝利という見方もあるが、少なくとも南北関係の今後に関する限り、現時点で主導権を握っているのは韓国政府だ。そもそも平昌五輪をめぐる一連の外交攻勢を仕掛けたのも文大統領だった。

まず、北朝鮮の五輪参加が実現したのは韓国政府の熱心な働き掛けがあったからだ。文大統領は何カ月も前から北朝鮮に、選手団や応援団の派遣を呼び掛けてきた。韓国政府と平昌五輪組織委員会は水面下で、あらゆるルートを通じて北朝鮮を説得してきた。そうしてついに、ミサイル発射と核実験の繰り返しで孤立の底にあった北朝鮮を引きずり出すことに成功した。

数カ月にわたる努力は、文政権の外交的勝利で報われた。開会式の際に南北朝鮮の選手団が朝鮮「統一旗」の下で行進した光景は感動的だった。オリンピック史上初ではないが、韓国の領土で実現したのは初めてのことだ。

韓国内で批判の多かった女子アイスホッケーの南北合同チームも成功と言える。もともとメダルを期待できる競技ではなかったし、試合結果は惨敗続きだが、合同チームは南北の絆を見せつける強力なシンボルとなった。

ただし文政権の外交努力が最も報われたのは、競技会場ではなく開会式の貴賓席だった。北の指導者の妹が訪韓しただけでも大成功なのに、文大統領は金与正と大観衆の前で握手を交わした。これは強力なメッセージだ。

その後の会談や、北朝鮮が文に訪朝を要請したことも重要だ。しかも金正恩は正式に、今回の五輪参加に謝意を表している。わずか数日で、文は南北関係の雪解けと首脳会談開催の可能性をたぐり寄せた。数週間前には予想もできなかった成果である。

振り回されてきた韓国国民

もちろん、アメリカと日本の保守派にとっては不愉快な1週間だった。平昌に行くのは北朝鮮のプロパガンダに対抗するためだと語っていたマイク・ペンス米副大統領は、開会式での南北選手合同行進の際に起立せず、公式の記念撮影も拒否。歓迎レセプションはわずか5分で退席した。「対話の窓口は常に開かれている」という発言が空疎に聞こえる。

180227cover-150.jpg<ニューズウィーク日本版2月20日発売号(2018年2月27日号)は「韓国人の本音」特集。平昌五輪を舞台に北朝鮮が「融和外交」攻勢を仕掛けているが、南北融和と統一を当の韓国人はどう考えているのか。この記事は特集より>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪中銀、カード決済に課されるサーチャージの廃止を提

ビジネス

日経平均は4日ぶり反発、AI関連堅調 金利上昇は上

ワールド

中国、「中央都市工作会議」10年ぶり開催 都市開発

ビジネス

午後3時のドルは147円半ばで上昇一服、米CPI控
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 2
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 5
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 6
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 7
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 10
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中