最新記事

米中貿易

トランプの対中保護主義が好調な株価を脅かす

2018年1月29日(月)16時46分
ビル・パウエル

トランプが中国製品に高関税をかければ中国も報復する(2017年11月、北京で蜜月を演じたトランプと習近平) Thomas Peter-REUTERS

<アメリカの経済好調を自慢するトランプだが、政権幹部は保護主義でそれが台無しになりかねないと懸念する>

奇妙な、そして思いがけない光景だった。

世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)と言えば、グローバル主義を奉じる政財界のリーダーたちがスイスの小さなスキーリゾートに集い、互いの虚栄心を満たすという年に1度のイベントだ。ところが今年は勝手が違った。メインホールにドナルド・トランプ米大統領が姿を現すや、人々は山中で雪男に出会ったがごとく、あわててスマートフォンを取り出し、写真を撮りまくった。トランプがダボス会議にやってくるなど、ニクソンが1970年代に中国に行ったのに負けない大事件だったのだ。

トランプはGDPの堅調な伸びや失業率の低下、好調な株価などを挙げ、自らの政権の経済運営がうまく行っていることを喧伝した。アメリカは「営業中」だと言いもした。一方でトランプは、大幅な貿易赤字は受け入れられないとのこれまでの主張を繰り返し、2012年以降拡大している貿易赤字を削減する考えを示した。サプライズも1つあった。再交渉で「もっといい条件」が得られるなら、就任直後に離脱を表明したTPP(環太平洋経済連携協定)への復帰もありうるとの立場を示したのだ。

だが発言そのもの、あるいは参加者たちの多くから嫌われていることを承知でトランプがダボスに乗り込んだという事実よりもっと重要なのは、そのタイミングだ。今トランプ政権は、通商問題で世間の大きな注目を集める決断をいくつも下す必要に迫られている。それも多くのエコノミストや企業経営者らによれば、トランプ自慢の米経済の好調ぶり(特に株価関連の)を危険にさらす可能性があるものばかりだという。

「自国の方が優位だ」と互いに思い込む

トランプがダボスに向かう前、米政府は輸入太陽光パネルと洗濯機に関税をかけるとの発表を行ったが、市場への影響はほとんどなかった。だが今後発表されるであろう決定はそうは行かない。この1年、米通商代表部(USTR)は中国による米企業の知的財産権の侵害の規模について調査を行ってきた。米政府によれば調査はほぼ終わり、現在は被害額の算定を行っている段階だ。全米外国貿易評議会(NFTC)のウィリアム・ラインシュ前会長によればその額は「大きな数字になる」と見込まれ、具体的には1兆ドルを超えると見られる。

問題は、トランプがそれにどう対応するのかということだ。政権高官らによれば、すでに大統領に対しては、中国からの輸入品への大幅な関税引き上げから輸出制限に至るまで、幅広い選択肢が示されているという。中には非常に厳しいものもあり、多くの米企業はトランプ政権に対し──主に国家経済会議(NEC)のゲーリー・コーン委員長やウィルバー・ロス商務長官を通じて──慎重な対応を大統領に促すよう、必死で働きかけを行っている。中国政府はすでに、アメリカの対応が何であれ同様の報復を行う用意があるとのシグナルを送ってきており、両国ともに相手よりも自国の方が強い立場にあると思っているようだ。

自動車業界は戦々恐々。景気や雇用への悪影響も

事情を知る複数の政権内外の人物によれば、コーンNEC委員長はトランプが関税による対応に傾いているのを承知で、貿易戦争が起きる危険は本物だとトランプに説いているという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米主要産油3州、第4四半期の石油・ガス生産量は横ば

ビジネス

今回会合での日銀利上げの可能性、高いと考えている=

ワールド

米首都近郊で起きた1月の空中衝突事故、連邦政府が責

ワールド

南アCPI、11月は前年比+3.5%に鈍化 来年の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中