最新記事

中国

尖閣に中国潜水艦――習近平の狙いと日本の姿勢

2018年1月15日(月)07時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

強軍国家の軍事戦略を周到に練っている習近平・中央軍事委員会主席 Damir Sagolj-REUTERS

尖閣の接続水域に中国の潜水艦と中国軍艦が進入した。日本は中国の意図を測りかねているようだが、これは習近平自身の軍事戦略によるものだ。第19回党大会以降の習近平の軍事戦略と日本のあり方に関して考察する。

習近平の軍事戦略とその証拠

日本の尖閣諸島接続水域に中国の潜水艦と中国軍艦が進入したことに関して、日本の防衛省は、1月12日、潜航していた潜水艦が公海に出て浮上した際に中国国旗を掲げているのを確認したと発表した。

これに関して日本では、果たして中共中央の指示なのか、それとも現場の指揮官の独断なのかを測りかねている情報が散見されるが、これは習近平が中共中央軍事委員会主席として指示を出したことは明らかである。

その証拠をいくつかお示ししたい。

1.昨年10月18日の党大会開幕式における長い演説の後半で、習近平は中共中央総書記として、今後5年間の軍事強国化に関する基本戦略を述べている。そこでは「2020年までに機械化、情報化を発展させて戦闘能力を高める。2035年までに国防と軍隊の現代化を完遂させ、今世紀中葉までに人民軍隊(中国人民解放軍)を世界一流の軍隊に持っていく」と抱負を述べている。と同時に習近平は続けて「台湾問題」解決に全力を尽くすことと、「国家主権と領土の完全無欠を守らなければならない」とも主張している。

2.2017年1月12日のコラム「中国、次は第二列島線!――遼寧の台湾一周もその一環」に書いたように、中国共産党機関紙の「人民日報」や中央テレビ局CCTVは昨年1月8日、「次に狙うのは第二列島線、東太平洋だ!」と一斉に報じた。第一列島線における中国海軍の活動はすでに常態化し、第二列島線は時間の問題で、空母・遼寧は「お宅ではない」と。これは、台湾の蔡英文大統領の訪米(ラテンアメリカに行く際のトランジット)に抗議するための行動だった。第一列島線における中国海軍関係の活動は常態化し、次に第二列島線を狙うという中国の方針は今も変わっていない。

3.2018年1月3日、習近平は中央軍事委員会主席として、そして全軍の総司令官として、全軍に対する「開訓動員大会(訓練を開始する動員大会)」を挙行した。そこでは軍の行動に一分の乱れもあってはならず、厳しく党の司令に従わなければならないと訓示している。したがって、現場の単独判断による行動はあり得ない。

4.2018年1月10日、北京の八一大楼で、習近平は軍事委員会主席として、武装警察部隊(武警)が中央軍事委員会の直轄下に置かれることを宣言する儀式(部隊旗授与式)を行なった(武警が中央軍事委員会直属に改編されたこと自体は1月1日に決定されていた)。

5.つまり、中央軍事委員会が中国の軍事や国家安全に関する全てを掌握したことを宣言する雰囲気に全軍が包まれていたのが今年1月10日のことである。全軍に対する習近平・中央軍事委員会の権威を高めるムードは中国の隅々にまで行きわたっていることが、CCTVでも、これでもか、これでもかと言わんばかりに満ち溢れていた。尖閣接続水域における中国の潜水艦事件は、その翌日の1月11日であったことに注目しなければならない。

以上より、中国海軍の潜水艦の尖閣接続水域への潜航は、偶発的なものではなく、中共中央軍事委員会の指示に基づいたものであることが見て取れる。少なくとも第一列島線における中国の覇権を予告する性格のものであったと解釈すべきだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル

ワールド

香港警察、手配中の民主活動家の家族を逮捕

ビジネス

香港GDP、第1四半期は前年比+3.1% 米関税が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中