最新記事

紛争

ウクライナ紛争ではびこる性暴力

2017年12月18日(月)12時00分
ジャック・ロシュ

親ロ派の戦闘員は支配地域で民間人を暴力的に屈服させている Maxim Shemetov-REUTERS

<ウクライナ政府軍も親ロシア派武装勢力も、捕虜や民間人を屈服させるためにレイプを奨励している>

オオカミはガイデ・リザエバをレイプ犯から救ったが、その後に彼女が目撃することになった残虐行為までは防げなかった。

2014年7月、30代初めのリザエバはウクライナ東部に駐留する政府軍に物資を運ぼうとして、同行者3人と共に親ロシア派の武装勢力に拉致された。

同行者はジャーナリスト、聖職者、運転手。リザエバら4人は近くの拠点に連行され、仮設の拘留施設に監禁された。施設では親ロ派支援のために派遣されたチェチェン人の戦闘員が軍靴や銃床で捕虜を殴打した。妊娠4カ月だったリザエバは、それが原因で流産したという。

リザエバを投げ飛ばした男たちは、彼女の背中にオオカミのタトゥーがあるのに気付いた。チェチェン人にとってオオカミは神聖な動物だ。男たちは彼女を痛めつけるのをやめた。

「おまえはチェチェン出身かと聞かれた。ノーと答えたが、オオカミのタトゥーとイスラム教徒であることに免じて、それなりに敬意を払ってくれた」と、リザエバは話す。

彼女はクリミア出身のタタール系ウクライナ人。14年3月にロシアがクリミアを併合したため首都キエフ郊外に逃れ、政府軍の支援活動をしていた。

戦闘員たちはリザエバを襲うのをやめたが、男の捕虜2人を裸にし、殴打した揚げ句、棒で性的暴行を加えた。リザエバは一部始終を見るよう強制されたという。

ウクライナ東部では14年から親ロ派武装勢力と政府軍の戦闘が続き、これまでに1万人を超える死者が出ている。

混乱が続くなか、政府軍と武装勢力双方による性暴力が吹き荒れているが、加害者が罰せられるケースはほぼ皆無だ。生き残った被害者が徐々に声を上げ始め、前線の拘留施設で行われているレイプや虐待、売春の強制や性器の切断、性奴隷扱いなど性暴力の実態が見えてきた。

人権監視団が把握しただけでも、性暴力の被害は何百件にも上る。報復を恐れたりレイプされたことを恥じたり、警察に届けても相手にされないなどの理由で泣き寝入りになっている件数ははるかに多いだろう。

ジュネーブ条約を無視

親ロ派の支配地域では住民は武装勢力の横暴に逆らえず、性暴力の取り締まりなど望めない。一方、ウクライナ政府の支配地域でも性暴力事件で警察が捜査に乗り出すことは期待できず、せいぜい形式的な捜査が行われる程度だ。ウクライナ政府は兵士が犯した罪を不問に付しているとの批判も聞かれる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、ハイテク株に売り エヌビディア

ビジネス

NY外為市場=円が対ドルで上昇、介入警戒続く 日銀

ワールド

トランプ氏「怒り」、ウ軍がプーチン氏公邸攻撃試みと

ワールド

トランプ氏、ガザ停戦「第2段階」移行望む イスラエ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 7
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中