最新記事

北朝鮮

北の核実験で広がる「幽霊病」と苛酷な仕打ち

2017年12月13日(水)16時10分
ジェイソン・シルバースタイン

2016年1月、北朝鮮の核実験の模様を映す韓国ソウルの電器店 Kim Hong-Ji- REUTERS

<地元住民が貧困と食料不足のせいと思っている「幽霊病」は放射能汚染によるものか>

核実験を強行する北朝鮮で、「幽霊病」と呼ばれる謎の病気が広がっている。米メディアで報じられた脱北者の証言によると、放射能にさらされた住民の間で、新生児に先天異常が起きているほか、体の不調を訴える者が続出しているという。

かつて核実験場の近くに住んでいた脱北者のリ・ヨンファは、NBCニュースの取材に対し、「あまりに多くの人が亡くなったため、私たちはこれを『幽霊病』と呼ぶようになった」と話している。

「命を落とす人が出ているのは、私たちが貧しく、満足に物が食べられないせいだと思っていた。しかし今になって、あれは放射線のせいだとわかった」と、リは続けた。

リは、北朝鮮の吉州郡から逃れてきた脱北者30名のうちの1人だ。脱北後は韓国統一省で被爆検査を受けた。孤立主義をとる独裁国家の北朝鮮から2010年に亡命して以来、リは慢性的な痛みに悩まされているが、これは北朝鮮の豊渓里核実験場近くに住んでいためだとリは主張する。

また、同じく吉州郡から逃亡してきた別の脱北者、リ・ヨンシルによると、近所の住民が産んだ子には、生殖器がないという先天異常があったという。こうした子は北朝鮮政府の手で殺害されるケースが多いため、両親が自らの手で赤ん坊を殺したと、リは証言している。

異常のある子は殺される

北朝鮮は周囲から孤立した独裁国家であるため、核実験場の周辺を外部の者が検証するのは不可能だ。そのため、核実験による放射能汚染があったとする脱北者の主張についても、これを裏付ける科学的証拠はほとんどない。NBCは、前述のリ・ヨンファについて、放射能汚染の検査では陰性の結果が出たと伝えている。

しかし韓国メディアは、北朝鮮の金正恩党委員長の核実験によって実験場付近の環境が汚染され、先天性異常がある子どもの出生が相次いでいると報じる。

しかも、この地域に被害をもたらしているのは、核実験による放射線汚染だけではない。9月3日に行われた核実験ではマグニチュード6.3の地震が発生し、付近の建物が倒壊した。これらの建物には学校も含まれており、当時校内にいた100人以上の子どもの多くが死亡したとみられている。

さらにその後も、豊渓里核実験場内で工事中に大規模な崩落事故が起き、200名以上の死者が出た可能性があることが明らかになっている。

金正恩は、父親の金正日が始めた核実験をエスカレートさせる一方で、アメリカとの軍事衝突も辞さないとして、ドナルド・トランプ米大統領と非難の応酬を繰り広げている。1月29日には、約2カ月ぶりに新型のICBMとみられる「火星15号」の発射実験を行った。軍事専門家によれば、この最新のミサイルは、これまでで最も性能が高く、アメリカ本土全域に到達する能力を持つという。

(翻訳:ガリレオ)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中