最新記事

中朝関係

北朝鮮問題、中国の秘策はうまくいくのか――特使派遣の裏側

2017年11月20日(月)17時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

敢えてタイミングをずらした特使派遣

10月24日に5年に一回開催される第19回党大会が閉幕し、25日には一中全会(中共中央委員会第一回全体会議)が閉幕すると、翌26日に新華社は習近平(中共中央)総書記の特使として中共対外聯絡部(中聯部)の宋濤部長をベトナムとラオスに派遣すると発表した。中国の党大会に関する報告で、一般にその国の与党の長に会い、口頭で報告する。実際、10月31日から11月3日にかけて、宋濤はベトナム、ラオスを訪問し、当該国の最高指導者と会っている。

中聯部は「中国共産党」の代表として、関係国の政府与党の長と連絡し合い面談する。2007年の党大会後に特使として北朝鮮に派遣された劉雲山も、2012年党大会後に派遣された李建国も中共中央政治局委員の一人だったのに、このたびの北朝鮮に派遣された特使は中共中央委員会委員に過ぎないので、これは「格下げ」で、北朝鮮に対して発した何らかのシグナルだといった報道が日本で一部見られるが、それは完全な間違いだ。今年はどの国も中聯部部長が派遣されている。「無駄を無くそう」という習近平のスローガンに沿ったコスト節減を実施していることを国内にアピールすることが目的だ。

ただ、5年前までの過去においては、「北朝鮮、ベトナム、ラオス」といった周辺の社会主義国家への特使派遣が同時に発表されるのが常だったが、今年は「北朝鮮」だけが、その国名から抜けていた。

どうするつもりかを注意しながら観察していたところ、11月15日に、「習近平総書記の特使として、17日に宋濤部長を北朝鮮に派遣する」という発表が成された。

なぜこのタイミングにしたかは明らかだ。

中国にとって5年に一回開催される党大会は国家最高レベルの重要会議だ。もしこの間に北朝鮮がミサイル発射などの暴挙に出たら、中国は中国が北朝鮮に対して持っている3枚のカードを切ると、北朝鮮を威嚇していたにちがいない。

このカードは、使ってしまうと脅しにならないので、いざという時に使うために、使わずに手に持っていて「威嚇する」。これが中国の基本戦略だ。だから党大会開催中は、北朝鮮はおとなしくしていた。

11月8日~10日には、トランプ大統領が訪中した。

北朝鮮の最大の敵はアメリカなので、そのアメリカと緊密になる中国を北朝鮮は許すことができない。しかし現在の国力で米中が組めば、北朝鮮は一瞬で木っ端微塵となる。トランプ訪中期間に、もし北朝鮮が暴走すれば、中米はその瞬間に提携して北朝鮮を軍事攻撃するだろう。だから、やはり北朝鮮は大人しくしていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏「米国の和平案推し進める用意」、 欧

ビジネス

米CB消費者信頼感、11月は88.7に低下 雇用や

ワールド

ウクライナ首都に無人機・ミサイル攻撃、7人死亡 エ

ビジネス

米ベスト・バイ、通期予想を上方修正 年末商戦堅調で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中