最新記事

人質事件

武装組織が人質1300人、インドネシア・パプア州で謎の村落占拠事件

2017年11月15日(水)21時40分
大塚智彦(PanAsiaNews)

ボイ・ラフリ(Boy Rafli)州警本部長は11月11日に武装集団のメンバーとして21人を指名手配したと発表。このうちリーダー格はサビヌス・ウェーカー(Sabinus Waker)という人物でこれまでに「殺人、銃の不法所持・不法発砲」容疑がある人物で、集団には類似の犯罪者が多く含まれている、としている。

パプア州警本部長だったこともある国家警察のティト・カルナフィアン(Tito Karnavian)本部長も「今回事件のあった一帯で金鉱山を無許可で採掘する労働者の中に武装グループが存在していることを当時確認していた」とわざわざコメントした。これは今回の事件がテロや独立運動とは無関係であることを強調する意図があるものとみられているが、一部マスコミからは「そんなグループを確認していたのならなぜその時に摘発しなかったのか」と逆に批判を受けている。

独立運動の一派、労働争議との見方も

占拠された村には武装集団の求めに応じる形でこれまでに外部から食料などコンテナ20個分が届けられており、人質からは「子供用のミルクを届けてほしい」などの要望がでているという。

パプア州は西パプア州とともにニューギニア島の西半分にあり、旧オランダ領から国連統治を経て1969年に帰属を問う住民投票が実施された。しかし自国領と主張するインドネシア軍の投票操作とその後の軍の侵攻でインドネシアへの併合が実質上決まったことを背景に独立を求める武装闘争が細々とではあるが現在も続いている。

独立運動の主体は「自由パプア運動(OPM)」という武装組織で、インドネシア警察、軍への散発的襲撃やパプア州南部で大規模な金、銅鉱山開発、採掘を続ける米資本「フリーポート社」関係者への襲撃事件などを起こしている。

こうした経緯から今回の人質事件も警察官襲撃が前段になっていることからOPMの一派の関与を指摘する報道も出ている。

もっともOPMは当局が封じ込めほぼ活動停止状態と主張してきたインドネシア治安当局にしてみれば、「OPMの活動は認めたくないところ」。それがために「犯罪者集団の犯行説を強調しているのではないか」(インドネシア人記者)との見方も出ている。

さらにフリーポート社の現地子会社でもある「フリーポートインドネシア」や関連する下請けの鉱山開発各社では最低賃金や労働環境を巡る労働争議も頻発している。争議の大半は州外からの労働者とパプア人労働者の待遇格差とされ、今回も人質の中に州外からの鉱山労働者が300人含まれていることから、労働問題が関連している可能性もあるという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-インタビュー:日銀1月までに利上げ、高市政権

ビジネス

再送-〔アングル〕円安観強めるオプション市場、22

ワールド

再送-インタビュー:高市トレード、円金利スティープ

ビジネス

米国株式市場=S&P500・ナスダック最高値、ハイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ「過激派」から「精鋭」へと変わったのか?
  • 3
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示す新たなグレーゾーン戦略
  • 4
    ヒゲワシの巣で「貴重なお宝」を次々発見...700年前…
  • 5
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 6
    インフレで4割が「貯蓄ゼロ」、ゴールドマン・サック…
  • 7
    【クイズ】イタリアではない?...世界で最も「ニンニ…
  • 8
    「それって、死体?...」新婚旅行中の男性のビデオに…
  • 9
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレ…
  • 10
    筋肉が育つだけでは動けない...「爆発力」を支える「…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 5
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレ…
  • 8
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 9
    更年期を快適に──筋トレで得られる心と体の4大効果
  • 10
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中