最新記事

中国共産党

習近平が絶対的権力を手にした必然

2017年10月31日(火)16時00分
フォーリン・ポリシー誌中国特派員(匿名)

「重慶モデル」は公式に否定されたが、習は薄の手法を模倣していた。彼は全国の腐敗浄化の約束を掲げ、大物(虎)も小物(ハエ)も容赦しないと主張した。以前の腐敗撲滅運動とは異なり、引退した公務員や民間人、軍人も対象になった。

薄の組織犯罪撲滅運動と同様に、習の腐敗撲滅運動は汚職の蔓延にうんざりしていた一般国民の間に広く浸透した。少なくとも最初のうちは、秩序と公的な正当性を求める党幹部の間でも人気があった。

運動の初期段階で習が手にした最も重要な戦利品は、胡政権時代に交渉の達人として名を上げ、12年に政治局常務委員を引退した周永康(チョウ・ヨンカン)だろう。

薄の失脚以来、薄と周が親密な仲だったという噂が出回ったが、それは習が仕掛けたものかもしれない。「薄と周は言われているほど近しくなかった」と、周の盟友の娘は言っていた。だが「習は周を追及できるように2人を結び付けたがった」。

14年12月に周の逮捕が発表されるまでの1年間、周が任命した幹部らは次々と汚職の告発を受け、政府機関から排除された。これまでなら、標的になった人々は豊富な人脈や、相互の脅迫材料、部下の忠誠心を利用して、反撃することができた。だが薄の失脚による動揺や、多くの関係者の退職や異動、続く訴追でネットワークは断ち切られ、全く抵抗できなかった。

以前も粛清は頻繁に行われていたが、その後は冷却期間が続き、回復と抵抗の機会を与えていた。だが習の腐敗撲滅運動によるショックと畏怖は和らぐことがなかった。

習の新しいプログラムのもう1つの柱は、公的生活の全ての分野、特に国民の監視に関する党の完全な支配の再確認だ。

習が最高指導者の地位に就いた時は、彼が「中国のミハイル・ゴルバチョフ」になるというお決まりの臆測がささやかれた。しかし、それは主として欧米のメディアや政治家の、そして国内外の反体制知識人の希望的観測にすぎなかった。

欧米諸国による文化的侵略と「アラブの春」に触発された若者の反乱という妄想をばらまくことで、習は治安維持の名目であらゆる手段を自由に使うことが可能になり、党内の自分の敵や、党そのものと対立する可能性のある存在を攻撃した。

薄が重慶で使ったテクニックをまねて、習は党に逆らいそうな市民を大量に逮捕し、オープンになりかけた社会を再び閉ざすことに邁進した。12年には、比較的自由な言論の場として人気だったマイクロブログの新浪微博の有力発言者を直撃し、沈黙させた。かつては限定的ながらも活動できていた人権派の弁護士も活動の場を失ったり、逮捕されたりするようになった。

ロシアを手本とする新たなNGO法で外国からの資金の受け取りを制限し、多くの組織を怖がらせて閉鎖させた。外国の教科書は中国の大学から一掃された。新聞は、愛国主義と際限のない習の賛美を繰り返す宣伝媒体と化した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ゼレンスキー氏との会談は22日に 「合

ワールド

トランプ氏、グリーンランド取得で武力行使を否定 ダ

ワールド

中国との包括的貿易協定の行方不透明─米USTR代表

ワールド

21日開催予定のG7財務相会合、来週に延期=フラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」の写真がSNSで話題に、見分け方「ABCDEルール」とは?
  • 2
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の核開発にらみ軍事戦略を強化
  • 3
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 4
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 5
    飛行機よりラク? ソウル〜釜山「110分」へ――韓国が…
  • 6
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 7
    「怖すぎる...」モルディブで凶暴な魚の群れに「襲撃…
  • 8
    宇宙人の存在「開示」がもたらす金融黙示録──英中銀…
  • 9
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 10
    トランプが宇宙人の実在を公表するのは「時間の問題…
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 5
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 6
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 7
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 8
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 9
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 10
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中