最新記事

北朝鮮危機

トランプは宣戦布告もせず北朝鮮を攻撃しかねない

2017年10月25日(水)20時48分
トム・オコナー

4月に米軍が地中海からシリアに59発のミサイルを撃ち込んだとき、国際社会は大きな衝撃を受けた Ford Williams/Courtesy U.S. Navy/REUTERS

<トランプには、議会の承認も得ずシリアの空軍基地にミサイル攻撃した前科もある>

ドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の挑発合戦は、互いの国を完全に破壊すると宣言するなど終末論的な次元までエスカレートしている。

もちろんそれは言葉の綾であって本気ではない。今は。

だが米軍最高司令官に就任した今年1月からこれまでのトランプの言動からわかることがある。トランプは、米議会に諮らず宣戦布告も経ず、いきなり北朝鮮を攻撃しかねない。

合衆国憲法は外国への軍事行動に関して、大統領は議会承認を得る必要があると規定するが、トランプはすでに議会の事前承認を経ずに軍事行動に踏み切った前科がある。今年4月、シリア北西部イドリブ県で、シリア政府軍が化学兵器を使ったと報じられたときだ。シリア政府もシリアを支援するロシアも関与を否定したが、トランプは一報から72時間以内に報復攻撃を決定。米海軍艦隊はシリアの空軍基地に向けて59発の巡航ミサイル「トマホーク」を発射した。トランプの側近の軍人たちすら、命令を思い止まらせることはできなかった。

突然のシリア攻撃は国際社会に衝撃を与え、トランプの攻撃命令を疑問視する声が上がった。トランプは攻撃の数時間後、核兵器を保有する北朝鮮に対しても同じことができると言った。それ以来、トランプは武力攻撃を示唆する発言を繰り返し、朝鮮半島情勢をますます悪化させている。

北朝鮮にもやりかねない?

「シリア攻撃の前例は深刻だ。国際法にも違反している」と、ワシントン大学のホイットニー・R・ハリス世界法研究所のディレクターで、国際刑法が専門のレイラ・サダトは本誌に語った。それでもトランプに対する批判が限定的だったのは、攻撃が空軍基地のみで、シリアにはすでに米軍が展開していたこともあったからだ。

もしシリアと同じように北朝鮮を攻撃すれば、戦争でとてつもない数の死者が出るだろう。

トランプの気まぐれで衝動的な言動、国際法も憲法も顧みない振る舞いのせいで、国際社会には第二次大戦に突入した1930年代のような不穏な空気が漂っていると、サダトは言う。

「トランプはベネズエラにも喧嘩を売り、シリアにはミサイルを撃ち込み、北朝鮮とイランを恫喝している。健康で精神が安定した人物がやることではない」とサダトは言う。

「法的根拠など、どうでもいいのだろう」

(翻訳:河原里香)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

片山財務相、城内経財相・植田日銀総裁と午後6時10

ビジネス

Temuの中国PDD、第3四半期は予想上回る増益

ビジネス

豪賃金、第3四半期も安定的に上昇 公共部門がけん引

ビジネス

EUは欧州航空会社の競争力対策不足=IATA事務局
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中