最新記事

交通開発

自転車大国オランダ、信号機を消してみたら起きたこと...

2017年10月10日(火)18時30分
松丸さとみ

Traffic in the city-Youtube

<自転車が急増し、自転車に合わせたインフラが求められているアムステルダム。そこで、ある交差点の信号機をオフにしてみた。そこで起きたこととは>

都市部では約7割が自転車移動

オランダは、人口1000人当たりの自転車台数が1000台で、自転車が国民の生活に浸透している(欧州委員会調べ)。特に首都アムステルダムの中心部では複数台の自転車を使い分ける人もおり、市内の自転車台数は約84万7000台と、人口(約81万人強)を上回っている(アムステルダム市公式サイト)。9月27日付の英紙ガーディアンによると町の中心部では交通の70%近くが自転車で、そのためもっと自転車用に合ったインフラが求められているという。そこで、2016年5月に、アムステルダム市はあることを試験的に行った。交差点から信号を失くしてしまうのだ。

アレクサンダープレインは、アムステルダム中心部近くにある、市内でも交通量が多い交差点だ。そこでは、自動車や自転車、トラム、歩行者が行き交う。しかしアムステルダム市は、アレクサンダープレインの交差点にある全ての信号機を試験的にオフにした。

米ニュースメディアのポリティコは、ニューヨークに本部を構える国際NPO、交通開発政策研究所のジェミラ・マグネソン氏の言葉を引用し、アムステルダムはこのような実験的な試みを積極的に受け入れる傾向が強いと指摘している。マグネソン氏によると、アムステルダムのこうした気質のおかげで、同市はこれまでも交通の実験室になってきたというのだ。

そんな進歩的なアムステルダムでさえ、アレクサンダープレインの信号をオフにすることについては、エンジニアや政治家の間で賛否両論となり、実際に試験を実施するまでに8カ月を要したという。

試験開始に先立ち、ガーディアンは自転車通勤でアレクサンダープレインを通り過ぎる人たち200人ほどに、この交差点について意見を聞いた。「カオス」、「誰も信号に従わない」、「信号が全部同時に青になる」など苦情を口にした人が多く、ポジティブな意見はほとんどなかったという。しかし、信号が必要だと思うか、と尋ねると、3分の1の人が「絶対に必要」と答え、「絶対に不要」と答えたのはわずか5%だった。残りのほとんどの人は、よく分からない、という意見だった。ガーディアンは、「明らかに、そんな質問、これまで考えたことない、という感じだった」と述べている。

コミュニケーションを取り合い交差点通過はスムーズに

実際に信号がオフになった際に、ガーディアンは試験前と同様に150人にインタビューした。すると、この交差点が嫌だと言った人が減っただけでなく、60%の人が、交差点での交通が改善したと答えたという。さらに、「人がもっと注意を払うようになった」、「自然と、自分たちで調整し合うようになったのがすごい」、「ちょっと怖いけど、止まる必要もないし、機嫌が悪い人もいない」と、人間同士のやり取りに関してコメントをする人が多かったことが目立ったという。

交差点に差し掛かると、ほとんどのサイクリストはスピードを落とし、他のサイクリストや自動車とアイコンタクトやジェスチャー、顔の表情、言葉などで合図を送り合った。交差点を通る他の人たちと譲ったり譲られたりといった感じで、摩擦は見られなかったという。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ベネズエラ大統領と電話会談 米での会談

ワールド

ネクスペリアに離脱の動きと非難、中国の親会社 供給

ビジネス

米国株式市場=5営業日続伸、感謝祭明けで薄商い イ

ワールド

米国務長官、NATO会議欠席へ ウ和平交渉重大局面
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 9
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 10
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中