最新記事

中国

さまようウイグル人の悲劇

2017年8月18日(金)18時45分
水谷尚子(中国現代史研究者)

magw170818-uigur03.jpg

「テロリストは現代の売国奴だ」と書かれたホタンの街のプロパガンダポスター SHUICHI OKAMOTO FOR NEWSWEEK JAPAN

青年によれば、街を観光しようにも交差点ごとに警官がいて、通りを歩いているだけで何度も身分証提示を要求された。行き交う車は「対テロ」戦を行う武装警察「特警」の文字が記されたものばかり。街の規模から考えると住民があまりに少なく、異常な雰囲気だったという。

カルグリックは特に中央政府に目を付けられている街だ。16年9月、カルグリック県公安局長をはじめ、多数の警官がウイグル人反政府活動家の自爆攻撃で死亡する事件が起きた。公安局長らは反政府組織の地下兵器工場を捜索した際、爆殺された。

新疆ウイグル自治区党委員会は事件後、カルグリック県党書記らの解任を決定。中国メディアは事件を公にはしなかったものの、自爆攻撃直後の肉片が散乱する凄惨な現場写真がネット上に流出した。カルグリックでは14年6月にも、反政府活動家が公安局ビルに車で突っ込み多くの死傷者を出している。

カルグリックは、ウイグル人反政府活動家を多数輩出した土地だ。改革開放後の最初の大規模反政府暴動「バレン郷事件」は90年、この地のモルラ(イスラム宗教学者)だったアブドゥルハキム・マフスムの下で学んだ学生たちが起こしている。

彼の学生ザイディン・ユスプが、バレン郷事件を起こすために結成した「東トルキスタンイスラム党」は、彼の死後アフガニスタンでその遺志を継いだ者たちによって再結成され、現在シリアで軍事訓練を行っているウイグル人組織「トルキスタンイスラム党」へと変遷を遂げていく。

アブドゥルハキムに感化され、師と同じ名を名乗ったアブリキムハン・マフスムもカルグリック出身のイスラム宗教者で、トルコ最大のウイグル人亡命者互助組織「東トルキスタン・教育と連帯の協会」結成に尽力し、イスタンブールでウイグル人亡命者の団結と相互扶助を呼び掛け続けた。カルグリックは、中国共産党にとって目の上の大きなこぶだったのである。

【参考記事】上海協力機構という安全保障同盟に注目すべき理由

安住の地はどこにもない

近年カルグリックのみならず、新疆各地でウイグル人居住区が無残な廃墟となっている光景を目にする。その典型がカシュガル旧市街だろう。モロッコの世界遺産フェズの旧市街にも似た、本来は世界遺産に登録されてしかるべき歴史的街並みだったが、中国共産党はウイグル人居住者の多くを追い出し、一部を残して「テーマパーク化」した。

カシュガル旧市街の破壊には漢人の学者さえ反対したが、共産党は決して彼らの見解を聞こうとはしなかった。

文化財級の歴史的景観を破壊した点では、北京や上海の都市開発と同様だとの意見もある。北京や上海などの都市では街並みが破壊され郊外に住居移転が余儀なくされても、街自体の拡大と経済発展によって、生活は維持向上し続けられる。

しかし新疆の場合、郊外に移転しようにも移転先の経済基盤は脆弱な上、新疆各都市の中心部に移住してきた漢人コミュニティーがウイグル人を排除するため生計を維持できず、多くの人々が路頭に迷うことになった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウクライナへのトマホーク供与検討「して

ワールド

トランプ氏、エヌビディアのAI最先端半導体「他国に

ビジネス

バークシャー、手元資金が過去最高 12四半期連続で

ビジネス

米、高金利で住宅不況も FRBは利下げ加速を=財務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 5
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 6
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 10
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中