最新記事

インドネシア

スタバvsイスラム団体 インドネシアでボイコット騒動

2017年7月10日(月)13時30分
大塚智彦(PanAsiaNews)

今のところスタバ・ボイコットの呼びかけ、動きはインドネシアとマレーシアに留まっているが、こうしたイスラム教団体の動向はインターネットで瞬時に世界に伝わることから他のイスラム教国、イスラム教団体も同調する可能性も捨てきれない。

もっともジャカルタ市内に多数あるスタバは報道の後も相変わらず多くのインドネシア人が利用しており、その人気は衰えておらず直接営業に影響が出ている様子はみられない。

利用者の1人は「ニュースは知っているが、おいしいコーヒーをボイコットするほどのことではない」と話す。

マレーシアでは法律で禁止

スタバ・インドネシアを運営するMAPの子会社「サリ・コーヒー」ではムハマディアの営業許可取り消し要求とボイコット呼びかけに対し「スタバは過去15年間、インドネシアでこの国や人々の文化、信条を尊重して営業を行ってきた。それは我々の誇りであり、これからもその姿勢はなんら変わることはない」との声明を発表した。

同性婚、同性愛が法律で禁止されているイスラム教国のマレーシアとは異なり、インドネシアは、イスラム教を国教とせず、キリスト教、仏教、ヒンズー教など多宗教を認めることで「多様性の中の統一」という建国の国是を守り続けてきた。

しかしその多様性を認める寛容性が最近は揺らいでいる。4月19日投開票が行われたジャカルタ特別州知事選で敗北したバスキ・チャハヤ・プルナマ(通称アホック)知事(その後辞職)の大きな敗因と指摘されているのが、昨年の選挙運動中の「イスラム教を冒涜した」とされる発言。この発言にイスラム急進派が激しい個人攻撃、宗教差別という誰もが異論を唱えづらい信条攻撃を執拗に行った結果、アホック氏は多くの支持を失ったといわれている。アホック氏はキリスト教徒で中国系インドネシア人という少数派だったのだ。

インドネシアはジョコ・ウィドド大統領が先頭に立って「多様な価値を認める寛容性」を国民に説いているが、実際は世界第4位の人口2億5500万人の88%を占める圧倒的多数のイスラム教徒の信仰、意向、主張が「非寛容性、多様な価値の否定」をはびこらせているとも指摘されている。

今回のスタバ騒動も、政府はムハマディアの「スタバ営業許可取り消し要求」には応じない方針とされるが、ネット情報や口コミが社会に与える影響の大きさを考えると、今後スタバに対してボイコットあるいは利用者への妨害や営業妨害行為が起きることも完全に否定できないのが現在のインドネシア社会。こうした雰囲気、風潮をどうコントロールし、沈静化していくのか、インドネシアの「多様性と寛容」をスタバ騒動は改めて問いかけているといえる。

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など



【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 8
    三船敏郎から岡田准一へ――「デスゲーム」にまで宿る…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中