最新記事

中東

カタール危機でアジアが巻き添えに

2017年7月22日(土)17時00分
ジョゼフ・ハモンド(ジャーナリスト)

とはいえ長期契約の見直し期が来たら、顧客側は供給源の多様化を模索するかもしれない。その結果、LNG生産大国であるインドネシアやオーストラリアが、新たな契約相手に選ばれる可能性がある。

「カタール危機によって、アジアのLNG輸入国は将来的な契約見直し交渉で優位に立つだろう」と、米シンクタンクの戦略国際問題研究所のリチャード・ラソウ上級顧問は言う。

カタールは、天然ガスから採取されるヘリウム市場でも重要な地位を占める。同国はアメリカに次ぐ世界2位のヘリウム産出国。断交発表を受けて、サウジアラビアへのヘリウム出荷を止めたため、危機は緊迫の度合いを増している。

従来、カタールが輸出するヘリウムは全てサウジアラビアを経由して各地の港湾へ運ばれていた。最も軽い希ガス元素であるヘリウムは、風船を膨らませるためだけでなく、防衛分野でも用いられている。アジア諸国の電子機器や半導体、光ファイバーメーカーはヘリウムなしでは立ち行かない。

カタールのLNG供給大手ラスガスは、同国産ヘリウムの重要性についてウェブサイトでこう指摘する。「00年以降、世界のヘリウム需要はおよそ20%増加している。日本、中国、韓国、台湾の電子機器メーカーの需要に牽引され、消費は今後も伸びるだろう」

【参考記事】カタール孤立化は宗派対立ではなく思想対立


日本の企業にも影響が

そのヘリウムの出荷停止は、東アジア経済に影響を及ぼすはずだ。日本のヘリウム販売大手である岩谷産業は、在庫は約1カ月分だとしている。これまでとは違うルートでカタールから輸入する方法を検討しているが、実現には時間がかかるという。専門家によれば、ヘリウム不足は7月中にも目に見える形で現れるはずだ。

カタールが供給停止に踏み切る前の段階で、世界のヘリウム需要は1年当たり2%という勢いで増加していた。新たな供給ルートが確立されても、危機の影響は尾を引くだろう。
長期的には、アジア諸国は新たな供給先に目を向けるのではないか。

そうした動きは、世界最大のヘリウム貯蔵量を誇るアメリカに恩恵をもたらすかもしれない。世界のヘリウム供給の5分の1を担う米内務省土地管理局は、中東危機を受けてヘリウム生産量を増やしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

情報BOX:パウエル米FRB議長の会見要旨

ビジネス

FRB、12月1日でバランスシート縮小終了 短期流

ビジネス

FRB0.25%利下げ、2会合連続 量的引き締め1

ワールド

ロシアが原子力魚雷「ポセイドン」の実験成功 プーチ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理に押し上げた「2つの要因」、流れを変えたカーク「参政党演説」
  • 3
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 6
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 7
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 10
    怒れるトランプが息の根を止めようとしている、プー…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中