最新記事

ISIS後

シリア東部はアサドとイランのものにすればいいーー米中央軍

2017年6月28日(水)21時27分
フレデリック・ホフ(大西洋協議会中東センター上級研究員)

シリア北部のラッカに向かうシリア民主軍部隊(6月6日) Rodi Said-REUTERS

<有志連合を率いる米中央軍から重大発表。ISISさえやっつければ土地はアサドのもの。米軍は速やかに撤退する──戦後復興はまたしないらしい>

ISIS(自称イスラム国)掃討作戦を進める有志連合の米中央軍報道官ライアン・ディロン大佐は先週、アメリカのシリア政策に関する重大発表を行った。

彼はイラクとの国境に面したシリア東部の町アブカマルに言及し、次のように語った。


アブカマルでISISと戦う意欲と能力がバシャル・アサド大統領とシリア政府軍にあるのなら、歓迎する。有志連合の目的は土地を争奪することではない。

我々の使命はISISを撲滅することだ。もしアサド政権が我らと協調し、アブカマルやデリゾールなどの町でこの使命を果たしてくれるなら、我々が同じ地域に出ていく理由はなくなる。

この発言の重大性は見過ごせない。アサド政権とそれを支援するイランは、シリア東部のどこでも好きな土地を取ってよい、と言っているのだから。

【参考記事】アメリカはシリアを失い、クルド人を見捨てる--元駐シリア米大使

米中央軍は、シリア東部にシリア政府軍の影響力が及んでいるのは、レバノンやイラク、アフガニスタン出身の民兵を率いるイランの力が大きいからだと認識している。

アサド政権が、その悪政でISISの台頭を許し、象徴的な敵として維持する一方、汚職が蔓延し機能不全で残忍なアサド政権に対して広がりつつあった反乱を、ロシアやイランの助けを借りて潰そうとしたこともわかっている。

アサドの復活は誰も望まない

米国務省のブレット・マクガーク特使がシリア住民から聞いたISIS支配下の悪夢も、米中央軍は否定しないだろう。それでも一人の住民はこう言った。「アサド政権の復活を望む人は皆無だ。アサド政権のシンボルや政府軍の復活も望まない」

アサド政権は悪政を敷きシリアを崩壊寸前に陥れ、イスラム過激派はその混乱の中で成長した。それでも米中央軍は、ISIS掃討に向けて「協調」するなら、アサド政権がシリア東部を再び統治下に置くのを歓迎するという。

その場合、欧米がシリアで得る収穫は、イラクのフセイン政権を支えたバース党と魂の行き場を失ったイスラム教スンニ派が大半を占める犯罪集団を無力化できることだ。その集大成が、ISISがカリフ国家の「首都」と称するシリア北部ラッカでの戦いだ。

【参考記事】ISIS戦闘員を虐殺する「死の天使」

米中央軍にとっては、ラッカでISISを掃討することがすべてなのだ。ISISが二度と復活しない環境を整えることは、たぶん他の誰かの仕事だと思っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中