最新記事

日本外交

北朝鮮危機が招いた米中接近、「台湾化」する日本の選択

2017年5月25日(木)09時20分
河東哲夫(本誌コラムニスト)

習近平訪米を歓迎する米中両国旗(フロリダ州) Joe Skipper-REUTERS

<米トランプ政権の対中強硬派の失速と朝鮮半島危機で好転する米中関係。2大国のはざまで日本は「駒」となるしかないのか>

4月上旬の米中首脳会談は共同声明もなく低調だったとの印象があるが、実態は逆だろう。会談後に中国は北朝鮮への圧力を強め、6回目の核実験を抑え込んだ。さらにこれを取引材料にして、貿易問題でアメリカの圧力を見事にかわした。

中国の習近平(シー・チンピン)国家主席がトランプ米大統領に示した「100日計画」によれば、中国は外資系金融機関への規制を大幅に緩和し、米国産牛肉の輸入も再開する。こうして中国は、「為替操作国」に指定されて関税を上げられる危機を回避した。

その分、貿易面での圧力というしわ寄せを日本などがかぶることになってしまった。3月の米貿易赤字急増について、ロス米商務長官は5月初め、日本とメキシコだけを名指しで非難している。これまで中国を敵視してきたバノン米大統領首席戦略官・上級顧問とナバロ前国家通商会議委員長の力が政権内で削られたこともあり、米中関係は前向きな方向に転じたと言える。

【参考記事】中国「一帯一路」国際会議が閉幕、青空に立ち込める暗雲

台湾陥落の次は日本か?

北朝鮮危機が、この回れ右の触媒となった。アメリカの空爆だけでは金正恩(キム・ジョンウン)体制と核関連施設を壊滅できない。さらに日韓両国への報復攻撃を招くため、アメリカとしては中国に依存せざるを得ないのだ。

こうして米中両国が手を握り、しわ寄せが日本に、という構図はこれから定着するかもしれない。米中間の「将棋の駒」としての日本――これは台湾の地位を思わせる。

トランプは大統領就任前の昨年12月初め、国交のない台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統に電話。その後も「一つの中国」を否定する構えを見せて、中国を驚倒させた。しかし台湾はトランプの対中取引の駒にされただけだ。その証拠にトランプ政権は懸案である台湾への兵器輸出を遅らせている。長期の戦略的利益や、自由と民主主義という価値観よりも、目先の取引を重視している。

台湾の防衛力は危険なほど低下しており、中国がいよいよ台湾制圧に乗り出すことも十分あり得る。台湾が陥(お)ちれば米中間の駒の役割は日本に回ってくるだろう。19世紀半ば、ペリー艦隊が日本に力ずくで国交を迫った理由の1つは、対中貿易の中継港獲得だった。この時以来の「中国があるが故の日本」という構造が、冷戦終結と中国経済の台頭で再び戻ってきた。

ただそのアメリカは今、分が悪い。米中首脳会談で習を表面的に屈服させるほど強力な軍事力と経済力がありながら、トランプ政権では各省の局長級以上の8割程度がまだ空席。政策立案と執行が十分できていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 6
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中