最新記事

先端科学

宇宙の放射線からクルーを守れ

2017年5月19日(金)17時40分
スワプナ・クリシュナ

2月にイスラエルでお披露目された放射線防護ベストの試作品 Amir Cohen-REUTERS

<宇宙飛行士の体をむしばむ放射線被曝のリスクを減らすために、サプリや防護服の開発が加速している>

放射線は至る所に存在する。自然来のものから核兵器の放射性降下物、医療用のエックス線までさまざまなものがあり、癌の原因になる一方、有望な治療法の1つにもなる。

宇宙にも大量の放射線(電荷を帯びた粒子)があふれている。そのリスクは宇宙旅行者にとって深刻な脅威だ。

地球の周囲には地球の磁場に捕らえられた放射線の帯「バンアレン帯」がある。バンアレン帯は内帯と外帯の2層から成るドーナツ状で、有害な宇宙放射線が地上に届くのを遮る役目を担っている。月や火星に行くためにバンアレン帯を通過すると、そこから先は宇宙飛行士の体は放射線の脅威に対して無防備になる。

宇宙飛行士は宇宙空間で2種類の放射線と戦わなければならない。1つは太陽系外から飛来する「銀河宇宙線」。光速に近いスピードで移動する高エネルギーの粒子だ。

銀河宇宙線は大部分が陽子だが、より重いものもあり、DNAを傷つけ、変異を引き起こし、遺伝子転写を変える可能性がある。遺伝子転写とはDNAの遺伝情報をRNA(リボ核酸)にコピーして全身の細胞に伝えること。そのプロセスが変われば、不完全な指示が細胞に伝わり、そうした誤差は中・長期的には永続的な変異になりかねない。

【参考記事】宇宙でも生き延びる地球生命は存在するのか? 細菌を成層圏に打ち上げ

火星旅行が現実味を帯びるなか、公的機関も民間企業も火星旅行のあらゆる側面についてテストと再テストを繰り返している。だが放射線の問題を解決しない限り、そうした準備は水の泡になるだろう。

ウェークフォレスト大学再生医学研究所の研究チームは骨髄、脾臓、胸腺、リンパ節といった造血系器官に注目。NASAの資金提供を受けて、火星ミッションで想定されるレベルの放射線が宇宙飛行士に与える影響を調べた。「原爆被爆者の研究から、造血系は人体でも特に放射線の影響に敏感だということが分かっている」と、同大学のクリストファー・ポラダ准教授は言う。

研究では、健康な30~55歳の宇宙飛行士から採取した造血幹細胞を火星ミッションと同程度の放射線に被曝させた。その結果、造血幹細胞の機能が大幅に低下し、癌のリスクが増大。特に進行の早い白血病のリスクが大幅に増大した。

銀河宇宙線は低レベルの放射線で、短距離の宇宙旅行であればさほど問題はない。ポラダによれば「月に行く場合の被曝量はごくわずか」だ。一方、往復に最低2年はかかる火星ミッションの場合は、蓄積効果によって放射線の量も脅威も大幅に増大するという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ

ビジネス

パラマウント、スカイダンスとの協議打ち切り観測 独

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準

ワールド

アングル:コロナの次は熱波、比で再びオンライン授業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中