最新記事

北朝鮮問題

中国は中朝同盟を破棄できるか?

2017年5月5日(金)20時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

中国は決して自国の東北地方(黒竜江省、遼寧省、吉林省)が北朝鮮の核実験で放射能汚染されることを容認することはできない。

どの国も中国を追い込むことはできず、ひとたび判断ミスを起こしたら、中国の決心と爆発力は、大きな代償を支払わせることになるだろう。(ここまで引用)

おおむね、このような内容で、タイトルの割には激しく「中朝条約を破棄すべきか?」というところまで直接踏み込んだ表現をしていないが、「破棄すべきではないか」という中国の姿勢を中国共産党系の環球時報が表面化させた意義は大きい。

中朝軍事同盟破棄論は2003年から出ていた

筆者は「その昔」、中国政府のシンクタンク中国社会科学院の社会学研究所で客員教授&研究員を務めていたことがあるが、それが終わる頃の2003年、同じ中国社会科学院の「世界経済と政治研究所」の学者が「中朝条約の第二条(参戦項目)を削除すべきではないか」という論文を出していた。

中国政府のシンクタンクではあるが、必ずしも政府からのトップダウンの研究ばかりではなく、胡錦濤政権時代は(2008年までは)、割合に自由な意見を中国政府に対して提案する形の論文が許されていた。筆者の研究室は北京の北京国際飯店の二軒隣りにある本部の10階にあったが、たしか「世界経済政治研究所」は、その下の階にあったように記憶する。
エレベーターや食堂などで一緒になったりなどして、この論文に関して話し合ったこともある。

それは中朝条約破棄ではなく、中朝条約の第二条の「参戦項目」を削除して中朝軍事同盟から逃れないと、中国の国益に反するし、国連安保理常任理事国なので、そこにおける決議に支障を来して、国際社会における中国の立場を損ねるというものだった。

以来、中国の内部では、中朝軍事同盟を破棄すべきか否かというのは、そう突飛な、口にしてはいけないタブーのような存在ではなくなってきていた。

中朝軍事同盟を破棄したら、何が起きるか?

大きく分ければ、中国はいま北朝鮮に強烈な二枚のカードを持っている。

一枚目は前のコラムで書いた「断油」。すなわち北朝鮮への石油の輸出を完全に断つことだ。

二枚目が、この、中朝軍事同盟の破棄である。

習近平政権になってから、ただの一度も中朝首脳会談を行っていないので、事実上、中朝関係は終わっているに等しい。それでも2016年7月11日には、互いに祝電だけは送っている。皮一枚のつながりだ。最後に望みをかけてみたのかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産拡大を検討へ 日量5

ワールド

トランプ氏、ウクライナ防衛に「パトリオットミサイル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中