最新記事
アメリカ経済

トランプ税制改革案、まったく無駄だった100日間の財源論議

2017年4月28日(金)16時00分
安井明彦(みずほ総合研究所欧米調査部長)

どんなに議論しても、結局、選挙公約に戻ってしまうトランプ大統領 Carlos Barria-REUTERS

<トランプが出してきた税制改革案は、ほぼ選挙公約のまま。就任以降共和党や民主党と費やしてきた議論はすべてチャラ、公約達成はさらに遠のいた>

4月26日、米国のトランプ政権が、税制改革の基本方針を明らかにした。出遅れていた議論を後押しする材料になるかと思いきや、出てきた内容は選挙公約とほとんど同じ。財政負担をどうするかなど、公約当時からの課題は残ったまま、議論は振出しに戻ってしまった。

紙ペラ1枚の税制改革案

紙1枚に箇条書き。たっぷり行間を空けて30行弱。

注目されていたトランプ政権の税制改革の基本方針は、あまりに簡素な内容だった。

「大きな発表を(来週の)水曜日に行う」

4月21日にトランプ大統領が大見得を切って以来、税制改革の基本方針には、大きな関心が寄せられてきた。トランプ政権は、4月29日に政権発足から100日の節目を迎える。所得税・法人税の大型減税を目指す税制改革は、トランプ大統領による選挙公約の目玉であるにもかかわらず、いまだに実現の目途が立っていない。トランプ政権が新たに方針を示す以上、停滞する議論を後押しする秘策が示されるのではないか、という期待があった。

期待は見事に裏切られた。簡素なだけではない。内容の点でも、示された基本方針は、大統領選挙当時の公約と、ほとんど変わらなかった。政権発足から100日に届かんとする月日を費やしたにもかかわらず、これまで障害となってきた論点が残されたまま、議論は振出しに戻ってしまった。

国境調整税は見送り

最大の論点は、税制改革による財政負担の扱いである。議会の異論にもかかわらず、巨額の減税を実現しようとするトランプ大統領のこだわりは揺らがなかった。

税制改革を実現させるためには、議会による立法が必要だ。まずトランプ政権が味方につけるべきなのは、同じ政党に属する共和党の議員たちである。

トランプ大統領が選挙公約とした減税の大きさに、議会の多数党である共和党は懐疑的だった。そもそも共和党は、財政赤字の縮小を目指している。そのため、減税の規模を小さくしたり、何らかの増税を併せて実施したりするなど、財政負担を軽減する方策が模索されてきた。

その典型が、議会共和党が提案してきた国境調整税の導入である。国境調整税では、輸出に減税を行う一方で、輸入への課税が強化される。米国への輸出が難しくなるとして、日本でも問題視されてきた税制だが、これが提案された背景には、財政負担を軽減する必要性があった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中