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中朝関係

金正男氏の息子、キム・ハンソル氏と中国の動向――中国政府関係者を取材

2017年2月27日(月)13時50分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

質問:だとすれば、マレーシアが何らかの形でハンソル氏と接触し、DNA鑑定により、被害者は間違いなく父親の金正男氏だということが判明したら、中朝関係に悪影響が出ると考えていいのか。

回答:そうだ。現在の状況では、まちがいなく大きな影響が出る。中国はこれに巻き込まれたくはない。そうでなくとも、中国はもっともっと大きな問題を抱えており、秋には19大(第19回党大会)も控えている。それどころではない。金正男問題(金正男一人)になど、かまってはいられないのだ。中国にはともかく、マレーシア警察がハンソル氏と接触することに関して、許可したり、禁止したりするという権利は、そもそもないことを再度、言っておく。

質問:中国がマレーシアと北朝鮮の仲介をするということもないのか?

回答:言っておくが、中朝間ではビザなし渡航などという制度は全く存在しない。厳重なビザ審査がある。ところがマレーシアと北朝鮮というのは、ビザなしで互いに出入国していい間柄だ。どれだけ仲がいい国同士だと思っているのか。国際社会は何かにつけて「北朝鮮に関しては中国に責任がある」ようなことを言って中国を批難する。中国にはたしかに中朝同盟があるにはあるが、マレーシアのような、ビザなし渡航を許すほどの、北朝鮮の友好国ではない。中国はマレーシア側にも北朝鮮側にも立たない。どちらか一方側について、どちらかを弁明したり非難したりもしない。巻き込まれたくないし、中立でいたい!

「これ以上は、もう聞いてくれるな」と言わんばかりの語気が響いてきた。

前回と違って、声のトーンが最初から重く、荒々しい。どれだけ中国が、手の打ちようのない窮地に追いやられているかが伝わってくる。

まるで「なんとかマレーシアが、独自に他の方法で本人鑑定をしてくれ」という、無言の叫びが聞こえてくるようだ。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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