最新記事

共生空間

ミツバチの「ノアの方舟」? MITメディアラボが実験中

2016年12月21日(水)17時40分
松岡由希子

MIT Media Lab

<世界各地で個体数が減少しているミツバチ。MITメディアラボでは、ハチとヒトとの新たな共生のかたちを模索するべく、一年中、ミツバチが元気に飛び回る、屋内スマート養蜂場を開発中だ>

 国際連合環境計画(UNEP)によると、近年、気候変動や干ばつ、農薬散布など、様々な要因により、世界各地でミツバチの個体数が減少している。米農務省の調査によると、2006年以降、米国で1,000万カ所以上のハチの巣が消失し、養蜂業だけで20億ドル規模の損害が発生した。2016年には、米魚類野生生物局がハワイの固有種であるハワイメンハナバチ7種を絶滅危惧種に指定している。

【参考記事】ミツバチの不吉な「過労死」症候群

 そこで、ハチとヒトとの新たな共生のかたちを模索するべく、米マサチューセッツ工科大学メディアラボ(MIT Media Lab)では、建築家でデザイナーのネリ・オックスマン(Neri Oxman)教授が中心となり、2016年1月から、屋内養蜂プロジェクト「Synthetic Apiary(合成養蜂場)」に取り組んできた。ミツバチが最も活動的になるよう、人工光を照らし、温度21度、湿度50%の環境を自動的に保持する"スマート養蜂場"を大学の施設内に設置。砂糖水と花粉を与えた上で、女王蜂1匹と働き蜂2万匹の生態を観察した。

161221newsweek_matsuoka1.jpg

matsuoka4a.jpg

 一般に、春は、ミツバチが最も活動的になるシーズン。冬の間、巣でじっとしていた働き蜂は、外を飛び回って花の蜜や花粉を盛んに集めるようになり、女王蜂は次々と産卵する。では、屋内で人工的に最適化された環境では、ミツバチはどのような反応を示すのだろうか。

 「Synthetic Apiary」でミツバチの生態を継続的にモニタリングしたところ、女王蜂がやがて産卵しはじめ、次第に卵や幼虫、成虫の数が増加。働き蜂の動きも活発になり、ハチミツの生産量も増えたという。つまり、周囲の環境を人工的に制御することで、年中、ミツバチが春だと思い込み、その行動パターンをも変えうるというわけだ。

 養蜂は、ヒトがミツバチに"住まい"を提供し、その代わりにミツバチが集めるハチミツをヒトが利用するという、いわば、ヒトとミツバチとの共生関係によって成り立つもの。近年、銀座ミツバチプロジェクト大阪ハニーなど、日本の都市部においても、自然環境との共存を目指す"都市養蜂"が徐々に広がっているほか、欧州では、屋根に設置できる養蜂ハウス「Vulkan Beehive」や都市養蜂のための専用施設「Honey Factory」など、建築やデザインの要素を取り入れたソリューションが開発されはじめている。

 「Synthetic Apiary」は、これらの試みから一歩進み、テクノロジーとバイオロジーを建築やデザインに融合させることで、ヒトとミツバチとの新しい共生空間を創り出している点が秀逸だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

林官房長官が政策発表、1%程度の実質賃金上昇定着な

ビジネス

アングル:FRB「完全なギアチェンジ」と市場は見な

ビジネス

野村、年内あと2回の米利下げ予想 FOMC受け10

ビジネス

GLP-1薬で米国の死亡率最大6.4%低下も=スイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中