最新記事

犯罪

実録・昏酔強盗、警察も対応不能な驚きの「完全犯罪」

2016年12月6日(火)12時50分
高城 武(ライター)

gilaxia-iStock.

<近年、上野近辺で中国人による昏酔強盗の被害が続発している。実際に被害にあった人物から、その手口を聞いた> (写真はイメージです)

 11月末、泥酔客のキャッシュカードを使って現金を引き出そうとした容疑で、上野の中国パブの客引きとして働く中国人女性・庄玉珠容疑者が逮捕された。スナックで酒を飲ませ前後不覚にした後に金を奪う、いわゆる昏酔強盗という犯罪だ。近年、上野近辺で中国人による昏酔強盗の被害が続発しているという。

 昏酔強盗は準強盗罪に分類される凶悪犯だ。警察庁の統計では強盗・準強盗罪は年々減少傾向にあり、認知件数は2005年の3412件から2014年には1910件にまで減少している。全体としては減少傾向にあるのに昏酔強盗の被害が増加している理由はなんだろうか。

 その背景にはほとんど立件不可能、まるで完全犯罪のような手口の洗練があった。警察もお手上げなのが現状だ。冒頭の事件のような逮捕にいたるのはレアケースなのだ。

 実際に被害にあった人物からその手口を聞いた。

被害者自らにコンビニのATMで金を引き出させる

「上野(2丁目)の歓楽街を歩いていると、客引きの中国人女性に声をかけられました。1時間2000円と激安料金をいわれてびっくりしたことはおぼろげに覚えています」と話すのはKさん(40代男性)。

「ただ覚えているのはそこまでで、次に意識があるのは泥酔者として保護された警察の保護房の中でした。若い頃には大酒を飲んだこともありましたが、こんなにきれいに記憶が飛んだことはありません。普通のお酒じゃないですね。翌日は一日中、指の震えが止まりませんでした。保護房から出てキャッシュカード、クレジットカードの利用履歴をチェックすると、計4回、合計で約30万円が引き出されていました」

 泥酔させられ、財布から現金やカードを盗まれたのではなく、口座から大金を盗まれたわけだ。しかもキャッシュカードやクレジットカードは手元に残ったままという手口である。Kさんだけではなく、昏酔強盗の被害者の多くはまったく記憶がないと供述している。しかし後述するとおり、自らコンビニのATMに暗証番号を打ち込み金を引き出している。記憶は完全に消すのに金を引き出すぐらいの行動力は残しておく。絶妙のバランスだ。Kさんもどんな店で飲んだのか、どんな女に客引きされたのか、一切の記憶がないという。

 いったいどんな薬物を使っているのか気になるところだが、これが最大の謎なのだ。以前には睡眠薬を飲ませるケースも多かったというが、最近では証拠にならないよう薬を使うケースは減っており、検査を受けても睡眠薬などの成分は検出されない。以前に警察の事情聴取を受けた中国人が「薬物ではなく、中国から取り寄せた酒をブレンドしたものを飲ませた」と供述したというが、たんなる酒を混ぜ合わせただけで魔法のような効果を生むことができるのかは疑問だ。なんらかの薬物を使っている可能性が高いが、それ以上は警察もまったく把握できていない。

 昏酔強盗を逮捕できるか、決め手となるのが現金の引き出しだという。ATMには必ず防犯カメラがついているため、本人以外が引き出していれば窃盗の重要な証拠となる。冒頭の庄玉珠容疑者は自分で現金を引き出そうとしたため逮捕につながった。

 Kさんの場合はどうだったのか。4回の引き出しのうちこれまでに3回の防犯カメラ画像を警察が確認している。警察官の説明によれば、確認した防犯カメラ映像では、いずれも証拠をつかませないように万全に配慮していた。

 横に中国人らしき女性がつきそっていたケース、そして店の外から見張っている様子だったケースのほか、残る1例が秀逸だ。当初はKさん1人で店内に入らせ金を下ろさせようとしたが、ATMの前でふらふらしていて操作ができない。すると女性が入ってきて金を下ろすよう促したという。カードを出し暗証番号を入力するよう伝えると、まるでゾンビのようにKさんは従ってしまう。金額を入力する画面では女性が入力したが、出てきた金は即座にKさんに手渡した。Kさんはふらふらしながらも金を財布にしまった姿が録画されていたという。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ヨルダン川西岸のパレスチナ人強制避難は戦争犯罪、人

ワールド

アングル:日中関係は悪化の一途、政府内に二つの打開

ワールド

「きょうの昼食はおすしとみそ汁」、台湾総統が日本へ

ビジネス

日経平均は5日ぶり反発、エヌビディア決算でAI関連
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 8
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 9
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 10
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中