最新記事

ミャンマー

スー・チー氏の全方位外交と中国の戦略

2016年11月8日(火)07時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 つぎに9月14日にホワイトハウスでオバマ大統領と会談しており、日米中の関係で言うならば、日本は3番目の訪問国と位置付けられたことになる。

日米中の間で――ドゥテルテ氏にも似た"漁夫の利"外交か?

 実は今年4月5日に中国の王毅外相がスー・チー氏と会談すると、その1カ月後の5月3日に日本の岸田外相がミャンマーに飛びスー・チー氏と会談している。

 この時点では、「スー・チー氏の、ASEAN(東南アジア諸国連合)以外の国の最初の訪問国は日本になるだろう」と日本は期待し、「日メコン連結性イニシアティブ」など多くの経済的および人的支援を約束している。

 ところが中国もまた早くから戦略的にスー・チー氏に外交攻勢をかけていた。

 中国・ミャンマーの関係は複雑で、カギを握っているのはミャンマー北部(中国との国境近く)に集中している「少数民族武装勢力の扱い」と「ミャンマー国防軍」との関係である。

 スー・チー氏が昨年11月の選挙に勝つには、少数民族武装勢力問題をどのように解決し、軍部を説得できるか否かが、大きな課題の一つとしてあった。中国は、そこに焦点を当てて、2015年6月にスー・チー氏の訪中を実現させたのである。少数民族武装勢力問題の解決には、中国の協力は不可欠だ。なぜなら15ある武装勢力のうちのいくつかは中国系だからである。

 そのため習近平主席は、2015年6月の会談で、少数民族武装勢力問題を解決する「和平へのプロセス」を強調し、11月に行われる総選挙に関して、スー・チー氏が率いる野党・国民民主連盟に有利に働く道を示したのである。したがって圧勝したスー・チー氏側は、中国の力の大きさを重要視して、訪米よりも先に訪中を選んだのだと、中国メディアは報じている(つまり、中国の協力があったからこそ勝利できたという位置づけなのである)。

 もし訪米を優先したとすれば、ASEAN地域におけるパワーバランス、あるいは南シナ海問題などで、中国との対立軸を生む。

 それだけは避けたいとスー・チー氏は判断したのだと、中国側分析は続く。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:軽飛行機で中国軍艦のデータ収集、台湾企業

ワールド

トランプ氏、加・メキシコ首脳と貿易巡り会談 W杯抽

ワールド

プーチン氏と米特使の会談「真に友好的」=ロシア大統

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 8
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中