最新記事

インタビュー

「打倒トヨタ」を掲げ、地域が共に闘う空気を意図的につくる

[島田慎二]株式会社ASPE 代表取締役

2016年10月21日(金)15時48分
WORKSIGHT

<経営不振のバスケットボール・チーム「千葉ジェッツ」を率いることになった島田慎二氏は、リーグを移籍し、アリがゾウに立ち向かう構図を資金獲得の旗印にして、見事に再建を果たしたという。「社長の仕事は社員に勝ちグセを植えつけること」と語る島田氏の、社長論そしてプロスポーツチーム論とは>

※インタビュー前編:経営不振のバスケチームを人気No.1にした勝因とは?

 日本トップクラスの男子バスケットボールプロリーグ「Bリーグ(ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ)」の発足を2016年9月に控え、日本のプロバスケット界は大きな転換点にあります。

 2015年まで、日本のプロバスケットボールリーグは「bjリーグ(日本プロバスケットボールリーグ)」と「NBL(ナショナル・バスケットボール・リーグ)」が並立する状態でした。私が千葉ジェッツの経営に携わることになったのが2012年2月で、当時ジェッツはbjリーグに所属していたのですが、同年6月にNBLへ移籍したんです。これは思い悩んだ末の、非常に重い決断でした。

アリがゾウに立ち向かう構図を資金獲得の旗印に

 決断に際しては、いくつかの検討の軸がありました。1つは千葉ジェッツ、あるいはチームを運営する我々ASPEという会社への影響です。

 リーグを変えることのメリットとしては経費節減が挙げられます。bjリーグは日本全国にチームが点在しているので、アウェイの試合だと交通費や宿泊代がかかります。その点、NBLだと関東近郊のチームが多いのでコストダウンできるというわけです。

 とはいえ、NBLは上位リーグなので対戦相手が強くなるというデメリットもあります。トヨタ自動車アルバルク東京や東芝ブレイブサンダース神奈川など、日本のトップレベルのチームと伍していかないといけない。「移籍したら絶対に勝てない。全敗してファンも離れてスポンサーもつかない。自殺行為だよ」という忠告も多くいただきました。

 だけど発想を変えれば、アリがゾウに立ち向かう構図は挑戦意欲をかきたてます。これは資金獲得の大きな旗印になると考えたんです。そこで「打倒トヨタ」を掲げて、夢を共有、共闘するシチュエーションをリーグ移籍によって意図的に作り、地元の経営者のベンチャーイズムに火をつけてスポンサー獲得を目指しました。

「たった1億円で日本一になるかもしれない!」

 NBLのサラリーキャップ* は1億5,000万円です。トヨタなどはこれ以上の額をチームにかける余裕があるけれども、ルールだからということで、無理やりこの額に収めているわけです。一方で、うちは頑張って4,000万。差がおよそ1億。でも裏を返せばたった1億です。この仕組みを地元の企業を集めて説明し、「たった1億円で日本一になるかもしれないんだから、こんな安く買える夢はない」と訴えました。

 これが功を奏してスポンサーが増えました。また、いただいたお金もあえてディスクローズして、1億5,000万円までの差額も刻々と明示したんです。「あと○○万円でトヨタに勝てる可能性があるということか。じゃあ来シーズンはもうちょっと応援しよう」と、そう思ってもらえるような誘導作戦です(笑)。

 前編で再建の第一歩としてスポンサー獲得にスポットを当てたと話しましたが、「打倒トヨタ」のスローガンはそのアプローチの本丸でした。1兆円の利益を出している日本最大の企業、そこが擁している日本一のチームに、地元のローカルな球団と力を合わせて勝ってみせる、その夢を一緒に見る。そういう状況を作るための格好の手段が移籍であり、みなさんと共闘しやすいストーリーを作ったわけです。

 こうして資金調達が加速し、組織の成長が始まっていきました。ローカルチームの我々がベンチャースピリットをもってできること、地域のみなさんとともに成長することができるはずという勝手な確信はあったものの、ある面から見れば確かに自殺行為にもなり得たわけで、これは大ばくちでしたね。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ハンガリー首相と会談 対ロ原油制裁「適

ワールド

DNA二重らせんの発見者、ジェームズ・ワトソン氏死

ワールド

米英、シリア暫定大統領への制裁解除 10日にトラン

ワールド

米、EUの凍結ロシア資産活用計画を全面支持=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 7
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中