最新記事

トラベル

イベリア半島にたたずむ家族経営の隠れ家ホテル

2016年9月28日(水)10時50分
ニック・フォークス

MARBELLA CLUB HOTEL

<スペイン南東部にある、60年代には社交界のセレブがこぞって休暇を過ごしたホテル「マルベーリャクラブ」は、大手チェーンにはない「変わらなさ」が客を引きつける>

 とかくこの世界は目新しさがもてはやされるもの。いつだって新品があふれ、私たちはソーシャルメディアからダイエット法まで、常に流行に敏感でいようと必死だ。

 だが時には、慣れ親しんだ心地よさに浸りたいこともある。私たちは人生を導いてくれる道しるべを必要としている。そうでなければ、あちらこちらから響く誘惑の声に誘われるままに向きを変え、新しいものの広大な海をあてどなく漂流することになってしまう。

 そんな理由もあって私は、家族経営のホテルが好きだ。なかでも最上級のホテルは強固な灯台のごとくそびえ立ち、容赦なく襲い掛かる流行の波にびくともしない。こうしたホテルの魅惑的で洗練された歴史、その変わらない本質に、私はどうしようもなく引かれてしまう。

 最近、シャトー・サンマルタンに滞在した。南仏プロバンスの丘に立つホテル&スパは、評判どおりの素晴らしさだった。

【参考記事】変貌する国際都市ダブリンを行く

 ただし何より私の心を打ったのは、このホテルの親しみやすさだ。大理石も金メッキもタペストリーも、どこか懐かしい気がした。このホテルを経営するのが、パリのル・ブリストルや南仏アンティーブのオテル・デュ・キャップ・エデン・ロックのオーナーと同じオトカー家だと聞いて納得がいった。

 同じことが、スイスのグシュタード・パレスにも言える。冬季には座り切れないほどの客であふれる「ロビーバー」が有名なホテルだ。経営するシェルツ家は、当初は従業員としてホテル経営に参画し、その後オーナーとなった。多少の変化はあるものの、このホテルは75年の映画『ピンク・パンサー2』の舞台となった70年代半ばの面影をしっかりと残している。

 断トツで気に入っている家族経営ホテルは、スペインのイベリア半島にあるマルベーリャクラブだ。白状しておくと、私はこうしたホテルと利害関係がある。マルベーリャクラブについては本を書いたことがあるし、グシュタード・パレスに関する執筆にも協力したことがあるから、ひいき目に見る部分はあるかもしれない。

 60年余り前に建てられたマルベーリャクラブの創業秘話は、おとぎ話さながらだ。ドイツ王族の子孫だった若く美しいアルフォンソ・フォン・ホーエンローエ・ランゲンブルク王子が、残された財産は家族所有の城だけに近い状況に追い込まれた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏銀行、資金調達の市場依存が危機時にリスク=

ビジネス

ビットコイン一時9万ドル割れ、リスク志向後退 機関

ビジネス

欧州の銀行、前例のないリスクに備えを ECB警告

ビジネス

ブラジル、仮想通貨の国際決済に課税検討=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 10
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中