最新記事

貿易

TPP推進派はもうオバマだけ

2016年8月25日(木)15時30分
デービッド・フランシス

 また「TPPには労働者の虐待や児童労働、野生生物の密輸、乱獲、森林破壊などの対策も盛り込まれている。TPP以上に労働者や環境に優しい通商協定はない」と論じ、批准に向けた「努力を続ける、支持は増えている」と強調した。

 これに対し、リーは(外国の首脳としては珍しく)オバマを諭すような口調で語り掛け、12カ国で5年間、内々で交渉を重ねてきたTPPをここで捨てたら、アメリカの信用はひどく傷つくだろうと忠告した。

「交渉の席に着いた貴国の同盟国や友好国は、それぞれに国内の政治的かつ微妙な反対論を押し切り、しかるべき政治的な犠牲を払い、ようやく協定をまとめ上げた。なのに土壇場で、もう結婚式場で待っているのに花嫁が来ないという事態になれば、たいそう失望する人がいるだろう」。リーはそう述べている。

【参考記事】TPPは上位1%のためにある

 かねてからオバマは、TPPのような広域的貿易協定を先に作らないと、中国にアジア域内のルール作りを許してしまうと主張してきた。それはピーターソン国際経済研究所のゲーリー・ハフバウアーがTPP破棄に伴う最大の危険と指摘する問題点と一致する。

「大きな穴が開いたのを見て、中国は大胆に主導権を握るべく、自国の市場を開放するような提案を持ち出してくるだろう」とハフバウアーは言う。現に中国は、TPPに対抗する東アジア地域包括的経済連携協定(RCEP)を提案している。

 大統領選後の短期間で風向きが変わり、年内にTPPが議会で承認される可能性はまだある。世論の動向はどうか。今年3月段階のピュー・リサーチセンターによる調査で、これまでの貿易協定がアメリカにとって良かったと思う人は51%、悪かったと思う人は39%だった。

 議会はどうか。大統領に優先交渉権を与える法案を採決した昨年6月段階で、下院は賛成218、反対208。上院は賛成60、反対38だった。

 この票差は維持できているだろうか。上院の雲行きは怪しいが、下院のライアン議長は今もTPPに前向きだ。共和党は自由市場の原則を守るという「党の魂のために闘う」と述べ、TPPのような貿易協定の重要性を強調した。「わが党が守るのは市場であって、産業界ではない。そういう党の魂のために、私は闘っている」とライアンは力説した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

FRB理事候補ミラン氏、政権からの利下げ圧力を否定

ワールド

ウクライナ安全保証、26カ国が部隊派遣確約 米国の

ビジネス

米ISM非製造業指数、8月は52.0に上昇 雇用は

ビジネス

米新規失業保険申請、予想以上に増加 労働市場の軟化
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 2
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害」でも健康長寿な「100歳超えの人々」の秘密
  • 3
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 4
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 7
    世論が望まぬ「石破おろし」で盛り上がる自民党...次…
  • 8
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 9
    SNSで拡散されたトランプ死亡説、本人は完全否定する…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中