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中国がいま尖閣を狙う、もう一つの理由

2016年8月10日(水)20時15分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

尖閣沖侵入は絶好のプロパガンダ

 中共にとって、「毛沢東が日本軍と共謀していた」という事実ほど恐ろしいことはない。国家の根底が覆されてしまうからだ。

 それもあって、「攻撃は最大の防御なり」とばかりに、尖閣を集中的にターゲットにし始めている。戦争までするつもりはないが、ともかく既成事実を作っておくことが中国に有利になることを南シナ海の強引さで学習した中国は、尖閣を含めた東シナ海領域で、既成事実を作っておくことに余念がない。

 今後の日程としては、8月15日の終戦の日、そして中国にとっての抗日戦争勝利記念日である9月3日に向けて、中国公船の動きは、ますます活発化していくであろうことを覚悟しておいた方がいい。

 中国にとっては、アメリカ政府がニクソン政権以来、「尖閣の領有権に関してはどちらの側にも立たない」と宣言していることが嬉しくてならない。つまり「アメリカは、尖閣の領有権が日本にあるとは言っていない」と解釈することができるので、中国はそのように主張し続けているからだ。

 そのオバマ大統領が広島を訪問したことは、中国にとっては「日本が被害者の国であった」ことにつながり、今般の原爆犠牲者慰霊平和祈念式典の知事のスピーチでも、そのオバマ大統領の広島演説の一部が引用されたことが、日本肯定につながると、気が気ではないのである。

 日本を批難し続けていないと、一党支配が維持できないところまで来ているからだ。

 日本は予め然るべき「手段」と「措置」を準備すべく、効果的な戦略を練っておいた方がいいが、それ以上に「毛沢東が日本軍と共謀していた事実」を中国につきつけることが、何よりも効果的である。

 これは歴然たる事実で、中国は全面否定できないからだ。

 そして中国人民の多くがこの事実を知ったときに、中国共産党政権は必ず崩壊するからである。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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