最新記事

リオ五輪

大気汚染で年間数千人が亡くなる街リオ、五輪選手にも影響か

2016年8月3日(水)20時25分

8月1日、5日にブラジルのリオデジャネイロでオリンピックが開幕する。ブラジル政府は、オリンピック開催地に立候補した時、リオ市内の大気環境は世界保健機関(WHO)の基準値内で、問題はないとアピールしていた。だが、これは真実ではなかった。写真はリオデジャネイロで撮影(2016年 ロイター/Ivan Alvarado)

 5日にブラジルのリオデジャネイロでオリンピックが開幕する。ブラジル政府は、オリンピック開催地に立候補した時、リオ市内の大気環境は世界保健機関(WHO)の基準値内で、問題はないとアピールしていた。だが、これは真実ではなかった。同国が開催地の権利を勝ち取った2009年も、そして今も、この基準値はまったく満たされていない。

 リオ市内の大気汚染はかなり深刻で、競技選手のパフォーマンスに影響が及ぶとの研究結果も出ている。さらに、リオでは大気汚染が引き起こす呼吸器官系の疾病などで死亡する人の数が毎年数千人に達しているという推計値もある。

 WHOは、粒子状物質「PM10」について、大気1立方メートル当たり年平均20マイクログラムの環境基準値を設けているが、ブラジル政府の環境保護局(INEA)データによると、2010年から2014年までの間、リオ市内のPM10の年間平均値は52マイクログラムだった。

 サンパウロ大学の病理学者であるパウロ・サルディバ氏は、リオ市内の大気は「オリンピック開催に適した状態でないことは明らかだ」と述べ、PM10による大気汚染が健康に与える被害は、他の汚染物質よりも深刻だと指摘する。同氏は、WHOが2006年に大気環境基準値を厳格化した時、基準値設置委員会のメンバーの1人だった。

 一方、ブラジルのオリンピック組織委員会のタニア・ブラガ氏は、大気の状態はPMのデータだけで判断できないと主張。リオ市内の大気中の二酸化窒素や二酸化硫黄など他の汚染物質は、WHOの基準値の範囲内にあると述べている。

 サルディバ氏がWHOの手法で分析したところによると、リオ市内では2014年に大気汚染が原因で約5400人が死亡したと推計される。これは、犯罪が多いことで知られる同市の2015年殺人死亡件数(3117人)を上回っている。

 また、マサチューセッツ大学アマースト校のジェイミー・ムリンズ資源経済学教授が約65万6000人のトラック競技選手を対象に8年にわたり行った調査では、PM10がWHO基準値を10ユニット上回るごとに競技選手の能力は0.2%低下するとの結果が出ている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米企業、来年のインフレ期待上昇 関税の不確実性後退

ワールド

スペイン国防相搭乗機、GPS妨害受ける ロシア飛び

ワールド

米韓、有事の軍作戦統制権移譲巡り進展か 見解共有と

ワールド

中国、「途上国」の地位変更せず WTOの特別待遇放
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
2025年9月30日号(9/24発売)

トヨタ、楽天、総合商社、虎屋......名門経営大学院が日本企業を重視する理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
  • 2
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 3
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市場、売上を伸ばす老舗ブランドの戦略は?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    「汚い」「失礼すぎる」飛行機で昼寝から目覚めた女…
  • 6
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 7
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 8
    【クイズ】ハーバード大学ではない...アメリカの「大…
  • 9
    カーク暗殺をめぐる陰謀論...MAGA派の「内戦」を煽る…
  • 10
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 3
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 6
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 7
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 8
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 9
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 10
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中