最新記事

貿易

メイドインジャパン潜水艦「ごうりゅう」幻に、仏勝利の舞台裏

2016年4月29日(金)13時33分

 日本が受注すると豪州に経済効果がないとの声が高まり、「競争的評価プロセス(CEP)」という名の競争入札に切り替えざるを得なくなった。
 15年2月19日、日本の安倍晋三首相はアボット首相から電話を受けた。次期潜水艦建造の支援先を決めるに当たり、日本、ドイツ、フランスを対象にCEPを実施したい──。アボット首相はそう告げた。20日に発表するという。

 安倍首相は「トニー」、「シンゾウ」と呼び合うアボット首相の苦境を理解し、入札への変更を承諾した。武器市場に参入したばかりの日本が、準備のないまま本格的な国際競争に放り込まれた瞬間だった。

安保法案への影響を懸念

 ところが、政府・三菱重工業<7011.T>・川崎重工業<7012.T>で作る日本の官民連合は、独造船ティッセンクルップ・マリン・システムズ、DCNSとの競争になったことの意味を理解していなかった。「豪州が本当に欲しいのは日本の潜水艦。勝っているのだから、余計なことはしないというムードだった」と、日本の関係者は振り返る。

 翌3月に豪州で開かれた潜水艦の会議に日本から参加したのは、海上自衛隊の元海将2人。豪国防相が出席したにもかかわらず、日本が現役の政府・企業関係者を送らなかったことは、豪国内で驚きを持って受け止められた。ティッセンとDCNSは、この場で自社の潜水艦建造能力を大いにアピールした。

 同月には豪政府からCEPへの招待状が届いたが、 日本は5月まで入札への参加を正式決定しなかった。大型の武器輸出の入札に手を挙げることで、国会の予算審議、その後に控える安全保障法案の議論に影響が出ることを懸念した。

 建造に必要な部品や素材を供給する現地企業の発掘にも苦戦した。豪企業の参画をできるだけ高めるのが入札の条件だったが、武器の禁輸政策を取ってきた日本の防衛産業は同国内に足掛かりがなかった。現地企業向けに説明会を開いても、当初は計画を具体的に説明せず、日本は前向きではないとみられるようになった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

香港長官が政策演説、経済と生活の向上に注力と表明

ワールド

米カリフォルニア大関係者がトランプ政権提訴、資金凍

ビジネス

アングル:外国投資家が中国株へ本格再参入うかがう、

ビジネス

ティッセンクルップ鉄鋼部門、印ナビーン・ジンダルか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中