最新記事

食品

「加工肉に発がん性」WHO発表が招いた混乱の舞台裏

2016年4月24日(日)08時28分

 IARCに19年間勤め、遺伝学と疫学のチームを率いたパオロ・ボフェッタ氏は、同機関を「今でも強く支持」すると述べたうえで、そのやり方は時に「科学的な厳密さ」に欠けると話す。なぜなら判断において、科学者は、自身や同僚の研究の見直しを余儀なくされることがあるからだ。

 批判に対し、IARCは断固反論する。同機関で分類プログラムを率いるクルト・ストライフ氏は、どのように発がん性リスクを評価しているのかとの質問に対し、「これはまさに考え得る最強のプロセス」だと答えた。

 IARCのクリストファー・ワイルド所長も複数の科学誌で反論。1誌に対しては書簡で、分類に携わる科学者たちは「ヒトのがんの原因を突き止め、病気予防に貢献することで、公衆衛生を向上させたいという強い願いによって奮起している」と語った。

 がん対策と世界の健康問題を専門とする英ロンドン大学キングス・カレッジのリチャード・サリバン教授は、いかなる混乱もIARCの役割に対する誤解がまん延しているせいだと指摘。「IARCは純粋に科学を行うための機関であり、それはそれでいいのだが、純粋な科学と、政策や公衆衛生に向けたメッセージとの間に乖離(かいり)がある。そこに問題が生じる」と述べた。

加工肉とたばこが同じ分類

 IARCは専門家を集め、すでに存在する科学的証拠を見直し、物質や行為を発がん性の度合いに応じて5つに分類している。

 IARCの分類が何を意味するかは誤解を受けることもある。IARCは「危険」、つまり、物質や行為が何らかの形でがんを引き起こす可能性をめぐる証拠の強さを評価するとしている。通常レベルのヒトへの暴露量や消費量は考慮されていない。要するに、何かによって、ヒトががんになる「リスク」や可能性を評価しているわけではない。

 例えばIARCは、プルトニウムやアルコールによってがんになる相対的なリスク水準について見解を示していない。この2つの発がん性について明らかな証拠があると言っているだけだ。そのため、発がん性が認められる物質として、どちらも「グループ1」に分類されている。

 米アルベルト・アインシュタイン医学校のがん疫学者ジェフリー・カバト氏はIARCを公に批判しており、同機関の分類は人々に「危害」を加えていると話す。

 「皆が知りたいのは、健康に明らかな影響を及ぼすであろう身の回りの化学物質は何か、ということだ。現実的ではない状況下で影響があるかもしれないというような机上の空論ではない」と同氏は指摘する。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中