最新記事

アメリカ社会

右と左が憎み合う狂気の合衆国

2015年12月21日(月)17時30分
カート・アイケンワルド(本誌シニアライター)

 こうしたなかで、良識ある議論を呼び掛ける政治家もいる。共和党候補のベン・カーソンはコロラド州の事件が起きた翌日、報道番組に出演。中絶問題などで互いを尊重して理性的な議論をしようと呼び掛けた。「憎悪に満ちたレトリックが状況を悪化させることは疑う余地がない。見解の相違について、知性を働かせ良識ある議論をするよう最大限の努力をすべきだ」

 この呼び掛けに異議を唱える人がいるだろうか。ところが、この狂気の時代には、カーソンは邪悪な反対陣営に擦り寄ったと、かつての支持者が断じるありさまだ。「大統領候補としてのカーソンは終わった」。番組放映後、中絶反対の活動家トロイ・ニューマンはそう宣言した。

 残念ながら、亀裂は埋まりそうにない。この10年ほど、アメリカは「事実」の洪水に見舞われてきた。インターネット、ケーブルテレビ、ラジオのトークショー。情報はあふれているが、まともな知識は入手しにくい。

 複雑な話(現実はいつだって複雑だ)はネットやテレビでは受けないし、有権者の支持もつかめない。聴衆をつかみ、寄付を集めるには、衝撃的で扇情的なフレーズが一番だ。

「現実的な脅威があるのに、それに対処することには誰も関心を持っていない。人々の関心事は脅威を政治的に利用すること、選挙資金を集めること、リツイート率を高めることだけだ」と、スキナーは嘆く。「まるで狂った人間を相手にしているようだ。この国は狂人たちの国になってしまった」

[2015年12月15日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米首都で34年ぶり軍事パレード、トランプ氏誕生日 

ワールド

再送-米ロ首脳、イスラエル・イラン情勢で電話会談 

ワールド

イスラエル、イランガス田にも攻撃 応酬続く 米・イ

ワールド

アングル:「暑さは人を殺す」、エネルギー補助削減で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 10
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 8
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中