最新記事

通貨

人民元をSDR構成通貨にさせた習近平の戦略

2015年12月2日(水)16時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

「金融の透明性」がなければ、AIIB(アジアインフラ投資銀行)は成立しない。北京や上海が金融の中心地になることなど、夢のまた夢となる。

 習近平政権は、その「中国の金融の夢」に一歩でも近づくためにも、反腐敗運動を展開したのである。

 さらに、人民元ができるだけ多くの国で使われるように戦略を練り、シンガポールやオーストラリアなど華人華僑の多い国だけでなく、イギリスのシティを中心にして人民元の国際化に力を入れてきた。イギリスが動けば競争心の強いフランスやドイツも動く。結果、これら多くの国々と人民元建ての債券発行や人民元で取引できる銀行の設置など、金融協力を着々と進めていった。

 それはイギリスのAIIB加盟により一気に進み、G7を切り崩していったことは記憶に新しい。

 今般の国際通貨入りは、いよいよAIIBにより日米などを除いた圧倒的多数の国を人民元取引に惹きつけ、これまでのドルを基軸とした国際金融体制を、人民元を基軸とした国際金融体制へと移行させていこうという戦略だ。

 こうしてこそ習近平政権が描く「中華民族の偉大なる復興」への夢へと近づく。

 しかし、その阻害要因が実は中国の国内にある。

 それはあまりに激しい一党支配体制が生んだ強固な国有企業の構造基盤であり、そこが生み出す腐敗天国だ。

 そのためすでに30万人近い大小の「虎やハエ」を退治してきたが、それでも本格的な構造改革はできていない。習近平政権は、今般のIMF決定を、国内の構造改革への外的圧力にして、「構造改革を徹底できなければ、世界金融の王者はめざせない」とハッパをかけるつもりなのだ。銀行を含めた国有企業が金融の透明性を阻んでいるからである。

 SDR構成通貨決定を受けて、パリのCOP21に参加していた習近平国家主席も、中国人民銀行もまた「(中国の)金融改革と対外開放を促進する」と強調したのは、そのためだ。

日本の課題――日本が出遅れた原因

 こういった世界の動きに日本が乗り遅れた感は否めない。

 日本がAIIBに加盟しないことは評価するが、今般、人民元のSDR構成比率が日本円を抜いた原因の一つには、中国の反腐敗運動を「金融の透明化」と「人民元の国際化」への序章であることに気づかない日本のツケがあると言っていいだろう。もしあの激しい反腐敗運動を、「人民元の国際化のため」と見る目を持っていたら、日本政府はもっとその方向の戦略を考えたのではないだろうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感、12月速報値は改善 物価

ワールド

米中が閣僚級電話会談、貿易・経済関係の発展促進で合

ワールド

NYタイムズ、パープレキシティAIを提訴 無断コピ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 2
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開きコーデ」にネット騒然
  • 3
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...ジャスティン・ビーバー、ゴルフ場での「問題行為」が物議
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中