最新記事

安倍外交

安倍首相中央アジア歴訪と中国の一帯一路

2015年10月26日(月)16時40分
遠藤 誉(東京福祉大学国際交流センター長)

成果は? モンゴルに立ち寄った後、安倍は中央アジア5カ国を歴訪した

 安倍首相が中央アジア諸国を歴訪している。ここはソ連崩壊後、中国がいち早く手を付け、今日の一帯一路構想を築くに至った、いわば「中国の縄張り」だ。中国の見解と日本の立ち位置、および中央アジア諸国の心理を考察して、今後の日本のあるべき姿を模索する。

中国の中央アジア政策と実績

 1991年12月25日に旧ソ連(ソビエット連邦社会主義共和国)が崩壊すると、中国は直ちに旧ソ連から分離独立した中央アジア諸国を歴訪し、国交を結んだ。

 なぜなら世界一長い国境線を有していた中国と旧ソ連は、1950年代後半から対立を始め、60年代には表面化していたからだ。1969年には軍事衝突を起こし、中ソ国境紛争にまで発展していたので、そのソ連の崩壊を中国は歓迎した。

 そして分離独立した15の国のうち、ウズベキスタン、カザフスタン、タジキスタン、キルギス(キルギスタン)およびトルクメニスタンを「中央アジア」と位置付け、電撃的に訪問するのである。国境線を固めるためだ。

 その電撃ぶりを、まず見てみよう。

 年が明けるのを待ちかねていたかのように、1992年の1月2日にウズベキスタンを、3日にカザフスタン、4日にタジキスタン、5日にキルギスタン、そして6日の午後、最後のトルクメニスタンを訪問して国交を結び署名した。同時に少なからぬ貿易協定も結んでいる。一日一国の割合で、「総なめ」したのだ。

 これらの国は、すべてその昔、シルクロードの沿線上にあった、中国にとっての「西域(さいいき)」である。まるで「ここは私の陣地」と言わんばかりの「唾付け」であった。

 中央アジア5ヵ国は、経済発展する中国の東海岸とヨーロッパの谷間にあり、そうでなくとも経済破綻もしていた旧ソ連のあおりを受け、不安なスタート点に立っていた。また安全保障的にも心もとない。しかし、この地域には石油や天然ガスなど、中国にとって喉から手が出るほど欲しい宝が埋蔵されている。

 それを心得ている中国は、90年代半ばになると膨大な投資を開始し、新疆ウイグル自治区の油田と結び付けて、中国全土にパイプラインを敷く巨大プロジェクトに着手し始めた。

 中央アジア一帯はまた、民族が複雑に絡み、新疆ウイグル自治区にいるウイグル族とともに民族分離独立運動や宗教問題など、安全保障に関しても中国と利害を共有している。

 そこで1996年に上海ファイブという協力機構を設立し、それがこんにちの上海協力機構の前身となっている。2001年に上海で第一回の会議を開催したので「上海」という名称がついているが、「上海=ビジネス」から連想する経済協力機構ではなく、安全保障機構として設立されたものだ。現在は経済貿易に関しても協力している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

タイとカンボジアが停戦に合意=カンボジア国防省

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い

ワールド

米航空会社、北東部の暴風雪警報で1000便超欠航
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中