最新記事

女性蔑視

「酸攻撃」多発でばれたイラン大統領の素顔

女性に対する酸攻撃が相次ぐのは、政府の強権的な体質が変わっていないから

2014年11月7日(金)16時31分
マデリン・グラント

羊の仮面 就任当初は穏健派として期待されたロウハニ Carlos Barria-Reuters

 若い女性が酸を浴びせられる事件が相次ぐイラン。怒りの声が高まるなか、ロウハニ大統領は「犯人には最も重い罰が待っている」と言明した。

 この数週間で25人ものイラン女性が酸を浴びせられ、少なくとも1人が死亡。多くの被害者が顔や手の重いやけどに苦しみ、片目を失明した女性もいる。先月末には、犠牲者の支援と市民の安全強化を訴えるデモに数千人が参加した。

 一連の事件とデモは世界中のメディアに取り上げられたが、犯人捜査にはほとんど進展がない。人権活動家の間には、徹底捜査を口にする政府の姿勢に懐疑的な見方が強い。酸攻撃が相次いでいる裏には、保守派政治家の議会での発言や、自警団に大きな権限を与えたことが関係しているとみているからだ。

 ある人権団体の代表によれば、女性たちが被害に遭ったのはイスラム法にのっとってヒジャブ(髪などを隠すスカーフ)をきちんと着用していないと思われたため。事件の増加傾向は、保守派指導者が最近行った強硬発言に影響されているという。

「保守派はイラン女性の服装の乱れをやり玉に挙げてきた」と、この代表は言う。「血を見るべきだという過激な声もあった。こうした流れと相次ぐ事件の間には関連がある」

 イランでは公共の場で、全身を覆う服装をしていない女性を警察官が注意することが珍しくない。議会で多数を占める保守派議員は先頃、イスラム法にある「勧善懲悪の実施」に従って自警団が取り締まりを行うことを許可する法案を提出した。

 イランの女性活動家マリアム・ナマジーは、酸攻撃の責任はロウハニと彼の政権にあると厳しく批判する。「もともと現政権は、女性の服装の乱れについて厳しい考えを持っていた。いまロウハニや閣僚は酸攻撃に反対する姿勢を見せてはいるが、それは猛烈な抗議が起きたためだ。反対意見が広がると、彼らはよく態度を変える」

 ロウハニは大統領に昨年就任して以来、穏健派とみられていた。しかし、政府の強権的な姿勢はほとんど変わっていない。先月末には、自分に性的暴行を加えようとした男を殺害し、正当防衛を主張するも死刑を宣告されていたイラン女性の絞首刑が執行された。この事件や相次ぐ酸攻撃は、ロウハニ体制が穏健だという見方を「神話」として葬り去るものかもしれない。

© 2014, Slate

[2014年11月11日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ大統領府長官が辞任、和平交渉を主導 汚職

ビジネス

米株式ファンド、6週ぶり売り越し

ビジネス

独インフレ率、11月は前年比2.6%上昇 2月以来

ワールド

外為・株式先物などの取引が再開、CMEで11時間超
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 8
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 9
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 10
    筋肉の「強さ」は分解から始まる...自重トレーニング…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中