最新記事

フランス

「進撃の極右」が映し出すもの

欧州議会選で国民戦線が大躍進。社会党の経済政策の失敗を追い風に、ルペン党首は大統領の座も視野に入れる

2014年6月12日(木)13時55分
ポール・エイムズ

圧勝の衝撃 ルペン率いる国民戦線の大躍進にフランス政界は揺れている Eric Gaillard-Reuters

 フランスの人気漫画の主人公アステリクスは、口ひげの豊かな古代ガリア戦士。ローマ帝国の支配に抵抗する彼の村を救うのは、村人たちに超人的な力を授ける魔法の薬だ。

 21世紀の今、極右政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン党首が国難を訴えるとき、フランスは不屈のガリアの村に「先祖返り」したかのようだ。アメリカの大企業がフランス企業買収を画策しようと、移民がフランス人の職を狙おうと、EU(欧州連合)の官僚たちがフランスをグローバル化の大波にさらそうと、ルペンが率いるフランスは外国の脅威に敢然と立ち向かう。

「国家は国民に果たすべき守りを固める」と、ルペンは国民戦線が欧州議会でフランス第1党になった2日後に語った。

「アメリカとの自由貿易協定と闘い、EUへの主権移譲と闘い、(ドイツ首相のアンゲラ・)メルケルが主導するEUに押し付けられたさらなる緊縮財政と闘っていく」と、ルペンはテレビで語った。「われわれはフランスを守る」

 こうした勇ましい言葉は、不況に苦しむ国には受けがいい。フランスは2桁の失業率に直面し、フランス人が謳歌してきた雇用安定や恵まれた労働条件、豊かな社会保障が脅かされるという不安に苦しんでいる。

 国民戦線は先月末の欧州議会選挙でフランス国内最高の25%を超える得票を獲得し、不人気なフランソワ・オランド大統領率いる与党・社会党と中道右派野党の国民運動連合(UMP)は面目を失った。

「毒薬」経済政策に共感

 ルペンの鼻息は荒いものの、フランスの病を癒やす魔法の薬まで持っているわけではなさそうだ。国民戦線が掲げる「愛国経済政策」は、ユーロ離脱とフランの復活、賃上げ、中国などによる「不公正」競争に対する貿易障壁の設置、外国人によるフランス企業買収の禁止、さらには中央銀行の独立権剥奪と財政出動を唱える。

 多くのエコノミストはこの政策を、インフレの末に孤立と財政悪化を招く毒薬とみている。「無駄であり、まったく非現実的で実現不可能」と、フランス経済観測所のジェラール・コルニヨは一笑に付す。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

フォード195億ドル評価損、EV需要減退で不可避=

ワールド

英、外国からの政治介入調査へ 元右派政党幹部のロシ

ビジネス

川崎重社長、防衛事業の売上高見通し上振れ 高市政権

ワールド

米16州、EV充電施設の助成金停止で連邦政府を提訴
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 7
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中