最新記事

北朝鮮

互いに相手を利用する日朝の外交ゲーム

日朝協議がストックホルムで開かれたのは中国に揺さぶりを掛けるためだった?

2014年6月11日(水)17時21分
ザカリー・ケック

次の一手 小泉純一郎元首相の電撃的訪朝のように、この2人のトップ会談も実現するのか From left: Toru Hanai-Reuters, Jason Lee-Reuters

 先週、スウェーデンのストックホルムで3日間にわたり開催された日朝政府間協議。その翌日、日本政府は日本人拉致被害者の安否を再調査することで北朝鮮と合意したと発表した。日本は調査の進展を見極めながら、独自の制裁の解除に動くかもしれない。

 見逃せないのは、協議の舞台がヨーロッパだったことだ(スウェーデンは北朝鮮と国交がある)。これまでの日朝協議はアジア、特に中国で開かれるのが通例だった。

 はっきりした証拠はないが、ストックホルムでの協議開催は戦略的な判断だった可能性がある。北朝鮮は最近、日本に秋波を送っている。その狙いの1つが、中国への当て付けだ。習近平(シー・チンピン)体制の中国は、特に核問題に絡んで北朝鮮に厳しい態度を取るようになった。最近も中ロ首脳会談後に発表した共同声明で、北朝鮮の核開発に懸念を表明している。

 北朝鮮が日中対立の激化している時期に日本へ接近を図るのは、庇護者の中国に対し、北朝鮮への過剰な批判が思わぬ結果を招く恐れがあると警告するためだ。一方、日本は北朝鮮という駒を使い、中国の戦略的計算を狂わせ得ることを示そうとしている。

 日本と北朝鮮が互いに相手を別の目的のために利用しようとするのは、今回が初めてではない。例えば日本の対韓国政策。日本とアメリカは北朝鮮の安全保障上の脅威を利用して、日韓関係の改善を図ってきた。つい最近も、アメリカが北朝鮮のミサイルや核開発計画に関する日米韓の軍事情報の共有を打診したばかりだ。

 この種の試みは、日韓両国の根深い相互不信のせいでことごとく失敗に終わってきた。それでも日本にとって、北朝鮮は歴史問題で韓国に譲歩せずに関係改善を図るための便利な道具となっている。

反日だけは韓国と共闘

 北朝鮮から見れば、日本は何よりも国内の統治に役立つ道具だ。北朝鮮の現体制にとって、「日帝」は統治の正統性の根幹と言っていい。北朝鮮の憲法序文にはこうある。「金日成(キム・イルソン)同志は不滅のチュチェ思想を創始し、その旗の下に抗日革命闘争を組織、指導して栄えある革命の伝統を築き、祖国解放の歴史的偉業を成し遂げ、(中略)朝鮮民主主義人民共和国を創建した」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハマスが停戦違反と非難、ネタニヤフ首相 報復表明

ビジネス

ナイキ株5%高、アップルCEOが約300万ドル相当

ワールド

ゼレンスキー氏、和平案巡りトランプ氏との会談求める

ワールド

タイ・カンボジア両軍、停戦へ向け協議開始 27日に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 5
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 6
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 7
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    【投資信託】オルカンだけでいいの? 2025年の人気ラ…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中