最新記事

欧州議会

極右の台頭が欧州の夢を脅かす

皮肉なことに次の欧州議会選挙では、EU崩壊を望む各国の極右政党が勢力を伸ばしそうだ

2014年5月9日(金)12時29分
藤田岳人(本誌記者)

欧州各国へ ハンガリーの首都ブダペストで行進する極右政党ヨッビクの支持者たち Bernadett Szabo-Reuters

 ヨーロッパ各国で最近、選挙や世論調査が行われるたび、繰り返し取り上げられる言葉がある。「極右の台頭」だ。

 今月6日に行われたハンガリーの議会選挙では、露骨な反ユダヤ主義などを掲げる極右政党のヨッビクが全国比例で21%の得票率を獲得。初の国会進出を果たした2010年の前回選挙から大きく支持を伸ばした。

 先月末のフランス統一地方選でも、右派の国民戦線が10以上の都市で第1党となるなど躍進した。同党はユーロからの離脱や反移民を打ち出しており、昨年からは共通する公約を掲げるオランダの自由党をはじめ他の欧州諸国の極右政党と連携する動きも見せ始めている。

 彼らが次の目標としているのは、5月下旬に予定される欧州議会選挙(定数766)。EU加盟各国で投票が実施され、有権者が自国から欧州議会に送り込む議員を直接選ぶこの選挙は、5年ごとに行われる。今年の選挙では、国民戦線や自由党のような極右政党が大きく議席を増やすとみられている。

 オーストリアやイギリス、ベルギー、ギリシャ、イタリアなど、反EUを公約に掲げる政党が多数の議席を獲得しそうな国はいくつもある。欧州議会では、7カ国から25人の議員を集めれば新しく会派をつくることができる。EU懐疑派の新会派ができれば、彼らの影響力は高まるだろう。

 EU懐疑派が台頭する背景にあるのは、ユーロ危機の余波に苦しむ各国の経済状況だ。高い失業率や低賃金に悩む人々の怒りの矛先は、ドイツ主導の緊縮財政政策や、他国から来て自分たちの職を奪う(ように見える)移民に向けられる。その結果、そうした現状を招いたとしてEUへの反発が強まっている。

 EUは欧州で繰り返された大戦の悲劇を繰り返さぬよう、各国の連携強化を目指してつくられた組織だ。それがヨーロッパの人々自身の選択によって崩壊の危機を迎えるとしたら──。

 そもそもEU崩壊をもくろむ議員が欧州議会に当選するのが、皮肉な話なのだが。

[2014年4月22日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏の核施設破壊発言、「レッドライン越え」=

ビジネス

NY外為市場=ドルまちまち、対円では24年12月以

ビジネス

米国株式市場=S&P500ほぼ横ばい、月間では23

ワールド

日本と関税巡り「率直かつ建設的」に協議=米財務省
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中