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迫害

ヒンドゥー右派がインドの自由を奪う

本を発禁処分にし映画の上映を妨害。欧米の文化的影響を目の敵にする勢力が台頭

2014年3月19日(水)15時23分
ジェームズ・タッパー

排他主義 バレンタインデーはキリスト教徒の習慣だと、燃やされたカード Adnan Abidi-Reuters

 世界最大の民主主義国インドに異変が起きている。4月7日から行われる総選挙では、インド人民党(BJP)が勝利し、同党のナレンドラ・モディが次期首相になる公算が高い。

 ヒンドゥー・ナショナリズムのカリスマ的指導者モディは、投資家の圧倒的支持を得ている。今のインドに最も必要な資質、つまり失速中の経済を救う力があるとみられているからだ。

 しかしモディを受け入れることは、その支持基盤を勢いづけることにつながる。穏健派の仮面をかぶり、経済手腕をアピールしてきたモディだが、その中核的な支持層はヒンドゥー至上主義者たちだ。

 シカゴ大学のウェンディ・ドニガー教授の著書『ヒンドゥー〜もうひとつの歴史』も、彼らのやり玉に挙がった。ヒンドゥー教を侮辱しているとして、原理主義グループが発禁処分を要求。報道によると、版元のペンギン・ブックス・インド法人は4年に及ぶ裁判の末、先月に出版差し止めに応じたという。

 カシミール地方で多発するレイプや人権侵害を告発したドキュメンタリー映画『オーシャン・オブ・ティアーズ』の上映もBJPの活動家の妨害で中止された。デリーで開催された書籍フェアでも、原理主義グループが一部書籍の朗読を妨害。バレンタインデーには、未婚の男女が公園のベンチなどから追い立てられる事件も起きた。

 BJPの支持基盤であるヒンドゥー至上主義組織の連合体「サング・パリワール」は、欧米の文化的な影響を排除し、インドを「ヒンドゥー国家」にすることを目指している。彼らはインターネット上でも盛んに過激なメッセージを発信している。

歴史教科書の書き直しも

 ニュース専門局NDTVの幹部は匿名を条件に、過激派の圧力で報道現場が委縮していると打ち明けた。「自己検閲をしていると認めるのは情けないが、そうした実態は否めない」

 CNNインドのニュース番組のアンカー、サンガリカ・ゴーシュはネット上で過激派に「レイプしてやる」とか「殺してやる」などと脅迫されている。「言論の自由を踏みにじり、独立系ジャーナリストを黙らせる邪悪な動きがある」と、ゴーシュはツイッターで訴えた。

 反モディの報道関係者が解雇されたり、左遷されているという話も耳にする。雑誌オープンの政治担当エディターも解雇され、モディ寄りとみられる人物が後任に据えられた。

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