最新記事

生命倫理

ベルギー「子供の安楽死」合法化のジレンマ

2014年2月17日(月)12時20分
エリーサーベト・ブラウ

既に秘密裏には行われている

 だが法案を支持する人々に言わせれば、こうした主張は時代遅れだ。ブリュッセル自由大学のペーテル・デコニンク名誉教授(小児外科)は、子供の安楽死をめぐるタブーを打ち破る時期が来たと語る。

「現代の子供は50年前の子供と違って、精神的に成熟している」と彼は言う。「終末期の病気の子供に分かりやすく、少しずつ話をするのは医師の義務だ。最初から何もかも話すことはないにしても」

 支持派に言わせれば、ベルギー国内では既に子供の安楽死は実施されている。「実際、小児科医は同情の念に突き動かされて、保護者の同意を得た上でかなりの数の子供たちの命に終止符を打っている」と、緩和ケアに詳しいブリュッセル自由大学医学部のヤン・ベルンヘイム教授は言う。

「これまでは訴追される恐れがあったため、秘密裏にやらざるを得なかった」とベルンヘイムは言う。「今後は合法的にできるようになるだろう」

 もちろん、本人が望むだけでは安楽死は実現しない。法案では、子供自身に十分な判断能力があるかどうかを、心理学者と医師が判断することが要件となっている。また医師は子供に対し、苦痛を緩和するための医療行為にどんな選択肢があるかを伝えるとともに、本人の希望について対話を続けることが義務付けられている。

 それでも「安楽死」という言葉を用いて話をすることは、重病の子供たちに死を選ぶよう圧力をかけることにつながりかねない。

「緩和ケアが功を奏しているのに、子供たちの命を堂々と奪うことなどあってはならないと思う」と、欧州生命倫理研究所(ブリュッセル)のカリーヌ・ブロシエは言う。「ベルギーは世界の安楽死の実習室になろうとしている。安楽死はワッフルと同じ、ベルギーの代名詞になるだろう」

 ブロシエによれば、子供の安楽死容認は倫理的に危うい領域への第一歩になりかねない。「次に来るのは認知症の人々の安楽死だろうか。その次は障害のある人々の安楽死か」

 ブロシエは言う。「今でさえ認知症の患者に対しては、蘇生措置や抗生物質の投与など、苦しみを長引かせるだけで無意味と思われる医療行為を控えることがほとんどだ。ほかの人であれば与えられるはずの救命措置に、彼らは値しないと考えられている」

 誰が生きるに値するかを判断しようなど、神の領域に対する侵犯と言ってもいい。だがナチス・ドイツでは、医師たちの手で1万人以上の障害や重い病のある子供たちの命が絶たれた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市首相、応援演説で円安メリットに言及 米関税のバ

ワールド

米政府機関の一部が閉鎖、短期間の公算 予算案の下院

ビジネス

中国1月製造業PMIが50割れ、非製造業は22年1

ワールド

トランプ氏、労働統計局長にベテランエコノミスト指名
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 2
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 3
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵士供給に悩むロシアが行う「外道行為」の実態
  • 4
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」…
  • 5
    「着てない妻」をSNSに...ベッカム長男の豪遊投稿に…
  • 6
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 9
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 10
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 5
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 6
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 7
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 8
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 9
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 10
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中