最新記事

中国社会

不動産のために離婚する中国人魂

住宅規制に対抗して「税逃れ離婚」が急増中。当局は不正の取り締まりにやっきだが……

2013年5月21日(火)15時51分
イーブ・ケアリー

何軒でも欲しい 不動産価格は上昇し続け、中国人の投資熱も過熱する一方(北京市内) David Gray-Reuters

 金銭的なトラブルや不倫、性格の不一致など、離婚の理由はいろいろある。最近の中国では「戦略的な離婚」が急増中だ。中国当局は不動産バブルを警戒して住宅取引の規制強化を打ち出したが、これに対する苦肉の策が離婚というわけだ。

 今年4月から北京と上海では、複数の不動産所有者の住宅売却益に20%のキャビタルゲイン税が課されることになった。さらに住宅ローンの金利と頭金比率も引き上げられた。上海当局は銀行に対し3軒目の住宅購入のための融資を禁止し、北京では単身者は1軒しか家を購入できない。

 浙江、江蘇、広東省の各都市でも、地元の住宅金融機関の融資条件が厳しくなり、融資額に上限が課されることになった。

 規制の狙いは不動産価格の高騰を抑えることだが、今も価格上昇は止まらない。国家統計局によると、3月時点で70都市のうち68都市で上昇。別の調査では、100都市の平均は3月に前年同月比3・9%と4カ月連続で前年同月より上昇し、上昇幅も1月(1・2%)と2月(2・5%)を上回った。「上有政策下有対策」(お上の政策に対して下々は対策を取る)が中国の常識だ。投機目的で住宅を購入し、売却益への課税を逃れようと人々は知恵を絞る。

 今春に入ってメディアの注目を集めるようになった税金対策が離婚だ。2軒目の住宅を手放して売却益を得たい夫婦が離婚届を出すケースが急増し始めた。離婚後はそれぞれが単身者として1軒ずつ家を所有でき、売却しても課税対象にならない。

 3月初めには結婚登録センターの窓口に離婚届を出す人たちが殺到。上海市閘北区の窓口には1日に53件もの申請があった。

 中国メディアによると、天津市当局は3月上旬の5日間に1255件の離婚申請を受理した。前週に比べて470件も多い。一方で、北京では単身者は1軒しか住宅を購入できないため、2軒目に投資するための擬装結婚も増えるのではないかとみられている。「擬装の離婚や結婚は不動産取引規制に制度的欠陥や抜け穴があることをあぶり出した」と、北京大学の夏学鑾(シア・シユエルアン)教授は言う。

「バブル」で得する人々

 もっと手っ取り早い抜け穴は汚職だ。今年2月、「房姐(フアンチエ)」ことが逮捕された。当局によれば、◯愛愛(コン・アイアイ)は偽造の身分証明書を使って北京だけでも41軒、他の地域で少なくとも4軒の住宅を購入していた。「房哥(フアンコー、兄)」こと汚職取り締まり当局者の張秀亭(チャン・シウテイン)も、19の不動産を購入して起訴されている。こうしたケースでは、当局者が複数の身分証明書や戸籍を捏造し、住宅購入規制を逃れている場合が多い。

 政府がこうした抜け穴をどう取り締まるかはまだ分からない。上海当局は離婚した人の住宅購入を規制すると発表したが、具体的な内容には触れていない。14年末までに全国統一の不動産登記制度を導入する計画もある。房姐や房哥たちは、市民の不満を抑えるためにも厳罰に処せられるだろう。

 しかし、こうした解決策だけでは不十分だ。現状では不動産取引を規制しようにも、規制を骨抜きにする誘因が働く構造になっている。そこが本質的な問題だ。銀行はローン金利で大きな利益を上げているので、住宅ブームが続くほうが都合がいい。

 地方当局は土地の売却で多額の収益を得ている。90年代初めの税制改革で歳入が減った上、社会保障負担が大きくのしかかり、地方財政は厳しい状況だ。
不動産バブルに歯止めをかけるには、規制の抜け穴を塞ぐだけでは駄目だということだ。少なくとも地方当局がやる気になるような仕組みづくりが必要だ。

From the-diplomat.com

[2013年5月21日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾巡る日本の発言は衝撃的、一線を越えた=中国外相

ワールド

中国、台湾への干渉・日本の軍国主義台頭を容認せず=

ワールド

EXCLUSIVE-米国、ベネズエラへの新たな作戦

ワールド

ウクライナ和平案、西側首脳が修正要求 トランプ氏は
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 7
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 8
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中