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「サッチャーお断り!」カードを捨てるワケ

2013年4月9日(火)18時02分
ジューン・トーマス

 またサッチャーが女性だったせいもある。サッチャーの冷徹な感じや、女帝のような口やかましさにいちいちカッとなってしまう男たちと、初の女性首相がなぜあんな人好きのしない人物なのかと忸怩たる思いを抱いている女性たちとの間で、サッチャーが女性だということは物事を複雑にする元凶だった。

 彼女に対する賛否で呼び方も変わる。左派の人々は馬鹿にしたようにマギー・サッチャーと呼ぶけれど、右派で彼女を支持する人々は敬愛をこめてサッチャー女史と呼ぶ。

 だがサッチャー嫌いの最大の原因は、イギリスの硬直的な階級制度の中における彼女の不安定な立場だったと思う。極めてイギリス的な話だ。彼女はイギリス中部の食料品店に生まれた「尊敬すべき労働者階級」の娘だ。政治的な出世の階段を昇るにつれて彼女が上流階級のアクセントを身につけていったことは有名だが、それでも彼女がトイレ付き浴室もない食料品店の2階で育ったことに変わりはない。

 保守党に身を投じたことでサッチャーは自らの出身階級に対する裏切り者となったが、保守党は彼女の出世を喜び、最後は「特権階級の一員」ではないにもかかわらず党首に選んだ。

 時は流れ、記憶も薄れた。死者への手向けとして、告白しよう。いま私は、当時彼女に抱いた憎悪に罪悪感を覚える。今朝ニュースで訃報を聞いたとき、過去数十年間、何度財布を換えても必ず入れ換えてきた「サッチャーお断り!」カードを、処分することに決めた。

© 2013, Slate

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