最新記事

中国社会

少林寺本家が拝金主義で大儲け!

武術の元祖・少林寺は今や一大ブランド。だが仕掛け人の住職には悪い噂が付きまとう

2012年10月16日(火)14時34分
アイザック・ストーン・フィッシュ

IPOの噂も出た 少林寺は今や世界のセレブが集う一大観光地 China Photos/Getty Images

 中国・河南省の少林寺といえば、伝統武術「少林拳」の発祥地。多くのカンフー映画の舞台になり、人気ヒップホップグループのウータン・クランも心酔している。

 現在の統括責任者は、第30代方丈(住職)の釈永信(シー・ヨンシン)。99年の就任以来、少林寺を金のなるブランドに変え、世界各地で演武ショーを行い、多数の観光客を集めてきた(10年の参拝者は200万人以上)。

 その中にはヘンリー・キッシンジャー元米国務長官、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領も含まれる。NBA(全米プロバスケットボール協会)のスーパースター、シャキール・オニールは少林寺を訪れて「ブッダの祝福」を感じたと、09年のブログに書いている。

 聖と俗、現代と伝統、共産党と民衆──相反するものを両立させる釈は、現代中国の成功モデル。党の統制下にあるビジネスと宗教の接点で巧みに立ち回っている。

 一部には少林拳の伝統を守る偉人という評価もあるが、党におもねる「商売人」という批判もある。巨額の「贈り物」を受け取る、寺の聖域で焼香する権利に大金をふっかける......。本人は否定するが、評価は真っ二つに分かれている。

 09年、少林寺の公式サイトがハッキングされ、金儲け主義に走ったことをざんげする改ざん文書が表示された。昨年3月の全国人民代表大会(国会)では、黄色の法衣姿にiPadを手にして議場に現れ、ニュースになった。


MBA取得はガセネタ

 昨年、本誌の取材を受けた釈は批判の的になっている世俗的な面をほとんど見せず、慈悲と調和を世間に広げる僧侶の務めを果たしているだけだと語った。
「寺の僧は家族も同然」だと、釈は言った。5月の暖かい日だったが、室内はひどく寒かった。「ここには衣食住のすべてがある。僧は毎月200〜400人民元(約2500〜5000円)の小遣いを受け取るだけだ。自動車などは集団で所有する。基本的に個人の持ち物はない」

 少林寺の創建は495年。言い伝えによると、禅の創始者とされるインド出身の達磨大師は、寺の近くの山中で9年間座禅を続けたという。

 今や少林寺周辺には、武術を学ぶ何万人もの若者や僧が暮らす。外国人もいる。7年以上も修行を続けているラスベガス出身のニキ・スリガーはこう話す。

「外国人は憧れを抱いてやって来るけれど、あちこちで数珠が売られている。商売優先の姿勢がますます強くなっている」

 少林寺の俗化を心配する声は少なくない。「少林寺は(中国の)誇りだが、悟りが得られる場所ではない」と、米シラキュース大学の中国仏教専門家ガレス・フィッシャーは言う。

 09年には、少林寺がIPO(新規株式公開)を準備中という話が流れた。しかし釈は、自分はビジネスマンではないと語り、こう言い切った。「少林寺はただの寺。ブランド化しようと思ったことなどない」

 昨年には少林寺北米サミットに出席。ニューヨーク、ロサンゼルス、ワシントンを訪れたが、「空の移動はいつもエコノミークラス」だったという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英首相がトランプ氏と会談へ、月内のスコットランド訪

ワールド

米国務省、人員削減計画を近く開始 影響受ける職員に

ビジネス

リクルートHD、求人情報子会社2社の従業員1300

ワールド

トランプ氏の出生権主義見直し、地裁が再び差し止め 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 6
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中