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中国「裸の官僚」を丸裸にせよ

公費で私腹を肥やす役人に市民の怒りは爆発寸前、中国政府はフカヒレや高級車の規制に乗り出した

2012年9月18日(火)15時56分
メリンダ・リウ(北京支局長)

豪華接待 庶民とは無縁な上海の高級フランスレストラン Carlos Barria-Reuters

 中国のブログは「裸官」の話題で持ち切りだ。検閲当局がこの言葉を検索不可にしたほどだが、「裸」といってもポルノとは関係ない。陰でせっせと私腹を肥やす一方、万一に備えて家族や資産をひと足先に国外に送り出している汚職官僚を指す。「裸」とは名ばかり、実は隠し事だらけというわけだ。

 贅沢三昧の腐敗官僚に市民は怒りを募らせている。風当たりを弱めようと、中国政府は政府の接待費、公用車、国外出張費という「3大公費支出」の削減を目指す新たな規制を発表した。10月1日から政府機関による贅沢品の購入を禁止、違反した者は懲戒処分となる。

 中国財政省によれば昨年の接待費は中央政府だけで14億7200万元(約180億円)。地方政府幹部の宴席費用まで含めたら、一体どれほどの額になることやら。

 しかしそんな贅沢三昧に歯止めがかかりそうだ。公費引き締めの動きを受けて、公用車の競売が増加。浙江省温州市では宴席費用は1人当たり60元(約740円)以下に抑えなければならない。フカヒレスープ、アワビ、ナマコ、マオタイ酒といった高級グルメも厳しく制限される(すべて温州市当局の宴席のメニューから外された)。

 これで世間の怒りは収まるだろうか。7月、中央政府は公務接待の場でフカヒレを提供することを3年以内に禁止すると発表した。しかし中国のネット市民の反応は冷ややかだ。マイクロブログでは「庶民は春雨を食べているのに、官僚は庶民のカネでフカヒレを食べている」という愚痴も目につく。

 多くの市民は新たな規制の効果に懐疑的だ。過去の公費引き締めの呼び掛けに官僚は「耳を貸さなかった」と北京理工大学の胡星斗(フー・シントウ)教授(経済学)は振り返る。「今回もうまくいくかどうか。中央政府が公用車の購入制限を発表して以来、多くの官僚は代わりに国有企業に購入させている。国有企業は地方官僚お抱えのATMのようになっている」

表向きは「薄給」なのに

「裸官」による贅沢が表向きは下火になっても、世間の怒りは収まらないかもしれない。中国商務省によれば、78〜2003年に国外に逃亡した汚職官僚は約4000人、着服金額は少なくとも500億㌦に上る。過去10年間でこうしたケースはさらに増えている。

 最近では、重慶スキャンダルで失脚した薄熙来(ボー・シーライ)前重慶市党委員会書記の妻がペーパーカンパニー経由でロンドンに複数の豪邸を購入していたことが発覚。そのうち73万6000ポンド(約9000万円)で購入したサウスケンジントンのマンションを、オックスフォード大学留学中だった息子の住居にしていた。

 重慶市の党委書記といえば党の序列で上位25人に入るが、当時の薄の公式な給与は年間わずか2万ドル。しかも本人の話では妻は弁護士を辞めて専業主婦になっていた。中国では上級官僚が国外に巨額の資産を保有することを禁じる明確な規定はないが、そもそも資産を購入できるだけのカネがどこにあったのか、いぶかる声が上がっている。

 中国当局が本気で腐敗防止に取り組むつもりなら、経済改革で多くの主要分野に対する政府の独占支配を減らし、国有企業に対する民間企業の競争力を増すべきだと、中国人民大学の陶然(タオ・ラン)教授(経済学)は言う。「公費乱用と贈収賄の防止に向けて真の永続的な進歩を達成するには、政治・経済制度の透明性を高め、適切な監視制度を設けるのが先決だ」

 さもないと中国の「裸官」の実態は闇に包まれたままになる。

[2012年8月 1日号掲載]

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